高校1年生の夏、坂平陸と水村まなみは体が入れ替わってしまった。現在公開中の映画『君の顔では泣けない』はその後の人生を描いている。
ある日突然、誰かと体が入れ替わってしまったら──『転校生』『君の名は。』など数々の名作を世に送り出してきた”入れ替わり作品”。これらと違うのは、思春期に入れ替わってから15年間という月日を重ねたふたりの物語であるということ。
初恋、卒業、進学、就職、結婚、出産、親との別れ。人生のライフイベントを入れ替わったまま経験してきた30歳の夏、彼らは元に戻る方法の手がかりを知る──。
主人公の坂平陸を演じるのは、ドラマ「波うららかに、めおと日和」 (CX) で今年大きな話題となった芳根京子。入れ替わりの相手である水村まなみを演じるのは、ドラマ「だが、情熱はある」(NTV) でその演技力を絶賛され、King & Princeのメンバーとして絶大なる人気を誇る髙橋海人。
相手の人生を守る一方で自分の人生を失っていく。心とは違う体で送ってきた、この人生は誰のものなのか? 相手を想うからこその切なさ、もどかしさ。これを目の当たりにすると自らの人生と重ねずにはいられない。
この作品の愛おしさ、そして割り切っては考えられない苦しさを、芳根京子さんに伺った。
挑戦的な新しい入れ替わりの物語 設定は複雑 役作りはシンプルに
――最初に本作へのオファーを受けたとき、この作品に対して、どんな感想をお持ちになりましたか?
この『君の顔では泣けない』は、心と体が入れ替わる作品と言われて想像する設定や物語とはひと味違い、元に戻ることがゴールではなく、その先の”果たして戻りたいと思うのか?”というところまで描かれた物語なので、だからこそすごく難しいし、相手のまなみ役は誰が演じられるのかがすごく気になりました。とにかく”挑戦的な作品だな”という印象を受けました。
――坂平陸という役柄を演じる上で苦労した点はありましたか?
入れ替わりという意識があるので難しく考えてしまいますが、役作りとしては、これまでの作品とやることは変わりはないんです。ただ演じる人物が自分とは性別の違う、バックボーンも少し複雑。そこまで紐解くことができたら気持ちが軽くなりました。
――作品を拝見すると入れ替わり映画という先入観がなくなって、芳根さんはただ陸の役を演じているだけだという理解になりました。
そう言っていただけると嬉しいです (笑) 。入れ替わりと言うと”お互いの役を理解しなければ”と思ってしまいますが、私は陸の理解者である、ただそれだけで良くて。
監督から「一度、陸とまなみの役柄を入れ替えてリハーサルをやってみませんか?」と提案していただいたこともあったのですが、「陸とまなみが元の体であるシーンが本編でも描写されていないところが面白いところだと思っているので、私はやらない方がいいのかもしれないと思うんです」と、提案をさせていただきました。
リハーサルを重ねていくと、私たちの軸がしっかりしていれば、よりうまくいくのでは?とみんなで発見していった感じですね。演じさせていただく上で迷いはありましたが、”ちゃんと役を組み立てていけば、仕草は後からついてくる”というように考えました 。
この世界で理解者はあなただけ
――水村まなみ役の髙橋海人さんとは初共演でしたが、撮影を通じてどんな印象を受けましたか?
お芝居をさせていただいてすごく楽しかったです。本当に陸とまなみのように、「それ辛いよね。わかるわかる。そうだよね」と言い合えて、一緒にもがいて、一緒に進んでくださったから、すごく心強かったです。
それと、15年という年月を描いていることもあって、すごく繊細な作業が多かったんです。今日は30歳だけど、明日は21歳もあったし、1日の撮影の中で年代が変わる日もあったので、自分が行方不明になることもありました (笑) 。「今、私たちはいつを生きてるんだろう?入れ替わって何年目?今までどんなことがあった?」と確認し合っていましたね。
――月日を重ねる順番に撮影していないと、時系列がわからなくなりますね。
「苦しい」という感情を共有できたのも良かったと思います。苦しいといっても、”全速力で走った苦しさ”といった体力的な苦しさではなくて、”あなたの気持ちも分かる。でも私もこういう気持ちで、いやでもそうだよね‥‥”という複雑で精神的な苦しさなんです。
そういった内容の全てを言葉にしなくても「苦しい」という感覚を、お互いが同じ温度で持てていたと思います。”相手の気持ちに寄り添える”というより、”同じ気持ちでいる人がここにもいる”というのがすごく安心できました。
役柄的にも陸はまなみに対して、「俺、合ってるよね?」と答え合わせをしてしまう。けれど、まなみからしてもわからないじゃないですか。でも、まなみは「間違ってないよ」と言ってくれる。お互いの「苦しさ」を確認し合えたのは良かったです。
