「日本外し」の危機も
国が「邪魔はしないし、お金も出す」と言ってくれるのは朗報です。これで日本のエンタメは安泰……と言いたいところですが、現場の課題はそれだけで解決するほど単純ではありません。
いま、日本のアニメ産業は、もっと物理的な「供給不足」という壁にぶち当たっています。
世界的に日本アニメへの需要が高まり続ける中、その成長エンジンである「原作」の供給と「アニメの制作リソース」が追いついていないという課題が顕在化しています。
例えば、これまでアニメ化の強力な供給源であった「ジャンプ作品」をはじめとする日本のマンガも、高まる需要に対して供給力に限界が見え始めています。また、国内のアニメスタジオが手一杯である隙を突くように、米ワーナー・ブラザース・アニメーションと韓国のWebtoon Entertainmentが提携し、「日本を経由しない」アニメ制作ラインを構築する動きも見られます。
これは、「放っておくと、日本以外の場所で、日本っぽいアニメが作られて、市場を奪われる」というフェーズに入っていることを意味します。
こうした「原作不足」や「日本外し」といった、産業構造そのものに関わる深刻な課題については、筆者の別記事で詳しく解説しています。興味のある方はぜひ併せてご覧ください。
まとめ:「届ける」から「鍛える」への大転換
こうして見ると、経産省が打ち出した5原則の意味がより鮮明になります。
「大規模・長期・戦略的に支援する」→ 単発のイベントではなく、原作創出や制作体制といった「産業の足腰」を鍛えるため。
「作品の中身に口を出さない」→ 官僚的なリスク管理で現場を萎縮させず、世界で勝てる「尖った作品」を生み出しやすくするため。
これまでの政策の重点は「アニメをはじめとしたIPの海外展開」、つまり「海外へ届けること」に置かれていました。しかし、ネットワーク配信が普及した今、届けることは容易になり、むしろ高まる海外需要に応えきれていない現状があります。
新戦略は、「届ける」ことよりも、根本的な「原作供給と制作力の資源そのものを鍛え上げること」へと大きく舵を切りました。世界が求める日本エンタメを、日本自身が作り続けられるようにする。「産業化」の本質はそこにあります。
もちろん、美しい原則を掲げても、実際に使いやすい制度になるかはこれからの設計次第です。これまでのように支援を受けるのに手間が掛かりすぎたり、実際に作っている人たちとは異なる「中間事業者」に補助金の大半が降りてしまうような形になっては意味がありません。
国は「口は出さないが、金と環境は全力で用意する」。現場は「その環境を使って、世界と戦う作品を作る」。この役割分担が機能するかどうかが、日本アニメの未来を左右することになりそうです。
※経済産業省「第8回 エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会」の資料から参照・引用している箇所は、記事執筆時点の内容です。最新版の資料とは異なる場合があります。最新情報は公式の資料をご確認ください。

