人は誰もが歳をとるもの…たとえ美しいモデルやSNSで輝いている人であっても。そしてどこか心の奥で「老いているのは自分だけ」と思ってしまい、老化に抗おうとするものだ。
世界的な長寿研究の第一人者、スタンフォード大学長寿研究所所長のローラ・L・カーステンセン博士が、老いをめぐる5つの神話を科学的に解き明かしている。
『スタンフォード式 よりよき人生の科学』より一部抜粋、再構成して5つの神話の一つ「老いるのは自分だけである」が教えてくれる、本当に大切なこととは何かを見ていこう。
神話――老いるのは自分だけである
私たちは孤独に老いるわけではないが、そう思えてしまうときもある。最も美しく、強く、成功している最盛期の自分にも、時の流れが追いついてくる。美しくて若いモデルに対して次に羨望のまなざしを向けるときには、その人もあなたと同じように老いるのだと知ってほしい。
そうした老いの過程を乗り越えられると思う人もいる。そのために小手先の技を開発するのだ。調光器のついた電灯。体形をカバーする服。ペプチドを含むサプリメント。
前によく通っていた美容師さんが次のように言っていた。若いころのルックスに戻りたいと切実に思ったら、仰向けになり、ベッドの脇から頭を垂らし、鏡を見る。そうして、重力を味方につけるのだという。
ここで、できるだけはっきりさせておこう。老化を止めたり巻き戻したりしてくれるようなクリームも、食生活も、運動習慣も、知られているかぎりまだ存在しない。
悪徳商法による詐欺を防ぐための価値ある活動の一環として、2002年に51人の著名な科学者からなるグループが、『サイエンティフィック・アメリカン』誌に論文を寄稿し、本物のアンチエイジングを実現するポーションや製品は世界のどこにもないと明確に述べた。
長寿を売り物にするセールスマンはいつからいた?
イリノイ大学の生物人口学者で、私の友人でもあるジェイ・オルシャンスキーは、次のように述べている。
「長寿を売り物にするセールスマンは、何千年も前からいた。じつのところ、私はそれを世界で2番目に古い職業だと思っている。彼らは、自分たちでもってもいなければ、測定も制御もできないものを売ろうとしている。『若返り医療』を売りにする医師が近くにいたら、財布の紐を締めよう」
友人にこの話をするとき、これほど権威のある情報源を引用できて嬉しく思う。しかし友人たちは動じない。「じゃあ、海藻はどうなの?」などと聞いてくる。希望は限りなく湧きつづけるものだ。
そうして、しわ取りクリームにさらにお金を費やす。老いが人生にとって普通のことだと頭ではわかっていても、誰ひとり逃れられない道だと知っていても、理屈で説明のつかない無意識のレベルで、がんばれば、想像力を働かせれば、時間を欺く最初の人間になれるかもしれないと思ってしまう。
もうやめよう。
歳をとるのは避けられない。でも、どのように歳を重ねるかは変えられる。おそらくあなたは、人生のうち30年ほどを高齢者として過ごすのだ。折り合いをつけていこう。逃れるには死ぬしかない。永遠の若さという幻想を手放せれば、今後の計画に真剣に取り掛かることができる。どんな高齢者になりたいか、真剣に考えられるのだ。
かっこよくてイケてる高齢者だろうか。余裕があって超然とした、まじめな高齢者だろうか。優しい仲介者になるか、事実を率直に語る鋭い高齢者になるか。
若い人のキャリア形成を手伝うか、あるいは90歳にして尊敬される方法を背中で見せるか。史上最高の祖父母になるか。70歳以上の女性に似合う、おしゃれな服を開発するデザイナーになるか。環境保護を推進するか、地域の保護に努めるか。長寿の概念を変える方法はいくらでもある。

