
1965年11月27日に公開された「大怪獣ガメラ」。今年はガメラ生誕60周年にあたる。大映の経営難で途絶えていた「ガメラ」シリーズは平成に復活し、「ガメラ 大怪獣空中決戦」(1995)、「ガメラ2 レギオン襲来」(1996)、「ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒」(1999)の3部作が製作された。日本における特撮映画の最高峰と呼び声も高いこの平成ガメラ3部作が60周年の目前、11月23日(日)夜7時からBS12 トゥエルビ(BS222ch)で放送される。この機会に平成ガメラの魅力を振り返ってみたい。
■シリアスでハードに、ガメラのヒーロー像も変わった平成3部作
平成ガメラは、時代背景を反映して昭和ガメラから作風を大きく変化させた。ガメラもギャオスも超古代文明が生んだ生体兵器という設定が加えられ、怪獣の存在をリアルな伝奇要素で補強することで、子ども向け路線から大人でも見ごたえのあるシリアスでハードな作風へと転換した。
ガメラのヒーロー像にも大きな変化があり、「ガメラは人類の敵ではないが、無害な存在でもない」というのが平成ガメラだ。
その象徴が、3部作を通して登場する少女・草薙浅黄と、「ガメラ3」に登場する少女・比良坂綾奈の存在だ。浅黄は古代の勾玉を通じてガメラと精神的にリンクし、ガメラの痛みを感じ、意志を理解しようと努める。これは、かつて昭和の子どもたちが純粋な心でガメラを信じ、応援した姿を、現代的な設定で再構築したものと言えるだろう。
一方の綾奈は、「ガメラ2」においてガメラとレギオンの戦いに巻き込まれ、両親を失った少女だ。ガメラを激しく憎み、浅黄がガメラと人類をつなぐ存在であるのに対し、綾奈はガメラがもたらす災厄の側面を体現する存在。そして、ガメラを倒すため、敵怪獣イリスと感応する。
「ガメラ3」で、ガメラはギャオスを倒すため渋谷の中心でプラズマ火球を何発も放ち、1万人以上の犠牲者を出している。綾奈はいわば、ガメラという怪獣災害被害者の代弁者だ。平成ガメラではこの対照的な二人の少女を配置することで、「ガメラは本当に正義の味方なのか?」という根源的な問いを観客に突きつけてくる。

■日本の特撮映画の最高峰と評価される映像美
この平成ガメラ3部作は、日本の特撮映画の最高峰の一つとして今も特撮ファンの支持を受けている作品だ。その理由の一つが、圧倒的な映像美にある。
緻密なミニチュアワークとCG合成、VFXで完成した映像は現在の作品と比べてもまったく遜色がない。「ガメラ 大怪獣空中決戦」での東京タワーに営巣するギャオスを照らす赤い夕陽、「ガメラ2」で札幌の街を焦土と化すレギオンとの最終決戦など、挙げれば印象に残るシーンは数知れない。
特に、世界最先端を目指したバンダイのデジタルエンジン研究所(現在はプロジェクト終了)が参加した「ガメラ3」の映像は、当時「オーパーツのようだ」と評されたほど。雲海の上に出現するイリスの姿や、京都の夜空を舞台にしたガメラとイリスの空中戦は、特撮の枠を超えた映像として高く評価されている。

■平成ガメラは特撮映画史上初、自衛隊が全面協力した作品
そして、平成ガメラ3部作を特撮の最高峰たらしめているもう一つの要因が、特撮映画史上初となる陸・海・空の自衛隊の全面協力だ。自衛隊が映像撮影に協力するには防衛省による厳格な審査があり、自衛隊のイメージが低下する“やられ役”や、自衛隊機が民間に被害を及ぼすような描写がある場合は協力が得られない。
そんな中、やられ役になりがちな怪獣特撮でのイメージを一変させたのが平成ガメラだ。そのきっかけは、シリーズの特技監督を務めた樋口真嗣が各所で明かしている。樋口監督は、お子さんから「お父さんは負けてばかりだ」と言われる自衛官がいるという話を聞き、「これはなんとかしなければ」と思ったそうだ。
その思いもあって完成したシナリオでは自衛隊が確固たる戦力として描かれ、撮影協力の承諾が得られたという。ただし、当初はF-15Jがギャオスに撃墜され有楽町マリオンに墜落するというシーンがあったため、空自は難色を示すことに。そのため市街地上空では交戦不可能なため離脱というシーンに変更されている。これにより平成ガメラは、空自が一機も撃墜されない珍しい怪獣特撮となったわけだ。
こうして得た自衛隊全面協力のもと、劇中ではミニチュアやCGではない、本物の74式戦車、F-15J、護衛艦など数々の自衛隊の兵器や、自衛隊員と装備が登場する。「大怪獣空中決戦」では、飛行するガメラを地上から81式短距離地対空誘導弾(SAM-1)で撃墜するという、先の自衛官の溜飲が下がるような衝撃的なシーンが生まれている。

■“もし怪獣が現れたら?” 徹底的に描かれた防衛出動のリアル
自衛隊の全面協力によって得られたリアリティーは、なにも兵器や戦闘描写だけにとどまらない。劇中では「現代に巨大怪獣が出現したら自衛隊はどう対処するのか?」が、リアルにシミュレーションされている。怪獣対策本部が設置され、幕僚たちは民間人の避難や、怪獣の撃退法を検討。さらに、自衛隊の出動や交戦のプロセスも現実に沿った意思決定がされている。
中には自衛隊が迅速に出動する作品もあるが、現実はそう簡単には話が運ばない。自衛隊を防衛出動させるには国家安全保障会議と閣議に諮ったうえで、国会の承認を得て、内閣総理大臣が命令を出す必要がある。また、武力の行使は、行われた武力攻撃を排除するためだけに認められている。
劇中でガメラを前にした自衛官が、「武力行使が認められるのは防衛出動の場合に限られている。相手による攻撃が行われなければこちらから攻撃することは許されない」と答えているのもそのためである。
表面的なやり取りだけを見ていると、「怪獣相手に何を言っているのか」とツッコミを入れてしまうところだが、実際このシーンは自衛隊の出動プロセスを明確に表すものであるのだ。劇中では閣議のシーンこそないものの、ビジョンに映るニュース番組が閣議決定されたことを伝えている。
他にも交通網や街の被害状況が報道されており、その様子はさながら大災害時のシミュレーションのようでもある。改めて見る場合は、そうした細部を見直すのも面白いだろう。なお余談だが、平成ガメラの世界では「亀」という生物はいないため、ガメラを見ても誰も「巨大な亀」だとは言わない。そんなところも気にかけて観るのもまた面白いだろう。
「ガメラ 大怪獣空中決戦」は11月23日(日)夜7:00から、「ガメラ2 レギオン襲来」は11月30日(日)夜7:00から、「ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒」は12月7日(日)夜7:00 から、全国無料の放送局BS12 トゥエルビ(BS222ch)で放送される。


