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“ちょいワルオヤジ”誕生20年 岸田一郎74歳が明かす「LEONで日本の男を変えた日」編集部にはクレーム電話殺到も

“ちょいワルオヤジ”誕生20年 岸田一郎74歳が明かす「LEONで日本の男を変えた日」編集部にはクレーム電話殺到も

11月5日、2025年の新語・流行語大賞ノミネートが発表された。振り返れば、ちょうど20年前の2005年、ある言葉がベストテンに輝いた。「ちょいモテオヤジ」――いや、正確には「ちょいワルオヤジ」。そう、ライフスタイル誌『LEON』(主婦と生活社)を創刊し、日本の男性ファッション文化に革命を起こした伝説の編集長、岸田一郎さんが生み出した言葉だ――。彼の今を追った。(前後編の前編)

「ちょいワルオヤジ」の生みの親

「流行語大賞の時はね、『ちょいワル』じゃなくて『ちょいモテ』になっちゃったんですよ」と岸田一郎さんは笑う。

「当時はまだ、権威ある流行語大賞で『ワル』っていう文字はつかえないって言われてね(笑)」

『ちょいワルオヤジ』という言葉が生まれて、あれから20年。74歳になった岸田さんは今、何を考え、どんな毎日を送っているのか――。

岸田さんの編集長としてのキャリアは、1989年の『Begin』創刊から始まる。その後、世界文化社でハイクラス層向けの雑誌の編集長として複数誌を立ち上げ、その後、主婦と生活社に移籍して2001年に『LEON』を創刊した。

「30代前半で『Begin』を創刊して、それが成功したので、『次もお前やれ、次もお前やれ』って。創刊編集長以外やったことないんですよね」(岸田一郎、以下同)

社内でさまざまなジャンルの編集を経験するなか、主婦と生活社から「新雑誌を考えてほしい」とヘッドハンティングを受けた。

「こんな雑誌だったらどうですか、と事業計画とコンセプトを書いて出したんですよ。若い頃バブル経済を経験していて少しお金を持った男性のために、大人になった今なにを買ったらいいかを指南する雑誌、っていう。

そしたら『じゃあやりましょう』って。主婦と生活社の場合、ハイクラス雑誌の経験値がなかったから『そんな雑誌にブランド側が協力してくれるわけがない』なんて言い出す人が社内にはいなくて、逆にできた。『とにかく売れたらいいから』って任せてくれたんです。振り返れば、たしかに表舞台で目立ったのは私ですが、その舞台を用意してくれた主婦と生活社には感謝しかないですね」

中堅出版社だからこそ、正面攻撃ではなく"ゲリラ戦術"が必要だった。

「講談社や集英社に真正面から挑んでも勝てないわけですから。だから、どうやって割って入るか。そのためにはゲリラしかない。キャッチーな言葉で、印象的に攻めていく戦略でした」

創刊してすぐ、岸田さんは大胆な特集を組んだ。「モテる親父の作り方」。

「ラグジュアリーブランドに向かって『モテる』とか『親父』ってワードを使うのは、どう考えても受け入れられないでしょ。でも、先に読者を捕まえた方が早いだろうって」

そうして生まれたのが「ちょいワルオヤジ」という言葉であり、コンセプトだった。

「日本人って、戦後の徹底した民主主義で“みんな同じ”っていう意識を持つ人種なんですよね。だから、“不良のススメ”みたいなことを言っても、動き出しにくい。“みんな同じ”という枠から出ることはなかなか勇気がいるんですよ。でもやっぱり、隣のおっさんよりかっこいい自分って差別化したいわけで。だから『ちょっとだけ他の人と違いますよ』というところを狙った」

ジローラモを選んだ3つの理由

『LEON』の革新性は、ターゲット設定にもあった。

既存の男性ファッション誌は、どれも1万部程度しか売れていなかった。読者は少ない──それが業界の常識だった。

「でも僕は、ファッション好きじゃない人間を狙ったんです。いわゆる小金持ちな中年男性、今までファッション誌なんて買ったことはないような。ただ願望としては、女性にモテたいなとか、『あの人ちょっとかっこいいよね』って思われたいっていう」

ファッション誌の関係者からは「ビジネスに魂を売った編集長」と批判された。だが、岸田さんは意に介さなかった。

「読者は少ないですよ。私の時代でも9万部ぐらいしか実売取れてないわけだから。ただ、読者層が圧倒的にお金を持っていて、そこに対する影響力があった。それが全てだったんです」

『LEON』の顔となったのが、イタリア人タレントのパンツェッタ・ジローラモだ。だが、起用当初はそこまで世間に知られた存在ではなかった。

資本のある大手出版社には、資金も有名芸能事務所とのコネクションもある。中堅の主婦と生活社では、そこには頼れなかったという。

「じゃあ中途半端なちょっと売れてない芸能人で行くかってわけにもいかない。だから意表をついて、あまり知られていない外国人モデルにしようって」

ジローラモを選んだ理由は3つあった。

「ギャラが安い、私の提案を受け入れてくれる、そして決して二枚目じゃない(笑)。

電車に乗ってて向かい側に座ってても、『うわ、かっこいい人だ』とは思わないでしょ。『なんか人懐っこそうな人だな』って思うくらい。つまり読者にとって共感できるんです」

この"賭け"は大成功した。ジローラモは『LEON』とともに成長し、今や「ひとりの男性モデルが同一月刊誌の表紙モデルとして出演し続ける」ということでギネス記録を更新中の存在にまでなった。

「彼も本当によくやってくれた。お茶目な性格でね。一緒に上がってきてくれたっていう感じです。何でも快くOKしてくれてありがたいと思っていましたよ」

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