『Nikita』の誕生、男目線で見た艶女(アデージョ)
『LEON』の成功を受けて、2004年11月に女性誌『Nikita』を創刊した。
「30代後半以上の親父世代で、ラグジュアリー商品を買ってくれる、トレンドに夢中にさせられる読者がいるってことが分かった。当然、その層は女性もいるだろうって」
キャッチコピーは「あなたに必要なのは若さじゃなくてテクニック」。
「年齢も経験値も貫禄もあるわけだから。そのテクニックを満載してますよ、っていう」
岸田さんの目論見通り、自身を魅力的にみせるテクニックを高めるためにお金をつかえる女性たちは確かに存在した。
「銀座のクラブなんかに行くと、ママやホステスさんに『Nikita、読んでます!』って言ってもらえて、嬉しかったですよ」
『Nikita』では「乳間ネックレス」という言葉を作った。
「日本のマダムって、デザインとか見栄えでネックレスを選ぶけど、イタリアのミラノあたりのマダムは違うんですよ。男性が見た時にどう思われるかで選ぶ。日本で売っている普通のネックレスよりちょっと長めの、ちょうど乳間のあたりにプラプラするようなネックレスを選ぶんです」
瞬く間に話題となり、紹介した商品は爆速で売り切れた。
「編集長が男性なんで、ロジカルな提案をしていく。男性から見た大人の女性のベスト。『なるほど感』が効いたんでしょうね」
こうしたコピーのセンスは、どこから来るのか。
「置かれている立場ですよ。大出版社じゃないから、正面攻撃できない。編集費も少ないし、宣伝費もそれほど使えない。だからゲリラで、キャッチーな言葉で、印象的に攻めていくしかなかった。考え抜いての戦略です」
僕が作ったのは「ファンビジネス」
世間にセンセーションを巻き起こした『LEON』『Nikita』だが、もちろん批判がなかったわけではない。
「編集部に電話があったりしましたよ。『うちの旦那がLEONを読み始めてから浮気を始めた。どうしてくれるんだ!!』って」
岸田さんの答えはこうだ。
「スタッフに『その奥様に「Nikita」を送ってあげなさい』って。一緒にギラギラになればいいじゃないですか」
このように、読者からの反響は、時に予想を超えるものだった。
「でもね、会社帰りに新橋の居酒屋で『お前もちょいワルだね』なんて言い合っているオヤジたちは、実際には買ってくれてないわけですから」と岸田さんは笑う。
だが、本当に雑誌を支えたのは、確実に買ってくれる9万人の読者だ。
「ちゃんとお金を持ってる人たちが定期購読してくれている。私は結局、ものすごく売れる雑誌を作ったのではない。ファンビジネスを作ったんでしょうね」
20年経った今も、『LEON』は続いている。そして岸田一郎という名前は、伝説となった。
後編では、令和時代の「次にくる大人の男性像」や「メディアのあり方」について聞いた。
取材・文/木原みぎわ 撮影/佐藤靖彦

