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「バーチャルさんはみている」狂想曲。みんな頑張っていた2019年…… “様々な影響をVTuber界に与えたすごいアニメ”を振り返る<あのVTuberに花束を>

「バーチャルさんはみている」狂想曲。みんな頑張っていた2019年…… “様々な影響をVTuber界に与えたすごいアニメ”を振り返る<あのVTuberに花束を>

 現在、アニメイトタイムズにて、2019年に放映されたアニメ「バーチャルさんはみている」の1~12話が、期間限定で無料配信されています。公開期間は12月8日12時までです。

ライター:たまごまご

オタク・サブカル・VTuber系ライター。MoguLive、コンプティーク、PASH!、ねとらぼ、QJwebなどで書いています。女の子が殴りあうゲームが好きです。

X:@tamagomago

 この一報は、昔からのVTuberファンを震撼させました。どうしても「あの」や「伝説の」といった頭がついてしまう、超特殊な作品として語り継がれているからです。なんというかもう、色々な意味で万感の思いがこもるような語られ方で。

 「バーチャルさんはみている」に関しては、2025年10月26日に月ノ美兎が「【月ノ美兎のことを知りたい人へ】」と題した自己紹介動画の中で、メイン出演者として当時の感想を語っていました。

「様々な影響をVtuber界に与えた…すごいアニメで…」

「あれはあれで…何物にも代えがたい経験」

「『是非見てください』と強制することはできないがそういうアニメがあってとても業界に貢献した(?)ということは知っていただきたい事象でございますよね…」

(【月ノ美兎のことを知りたい人へ】」より引用)

 色々な意味で説明が難しいこのアニメ作品について月ノ美兎が語ったあたりから、SNSでは「バーチャルさんはみている」思い出話を語る声が次々とあがりました。

 たとえば当時からVTuberを続けていて、出演者ヤミクモケリンのマネージャーをやっていたIcotsuのポストは、撮影現場の空気がよく伝わってくるものでした。「なんとか面白くしたいVtuber側と規定台本通りに進めたい番組側でまぁまぁぶつかってた」という点について、本人の思い出話配信でも「なぜかこのタイトル、我々VTuber忘れられないんですよ」「刺激的な現場だったのは今も覚えております」と語られています。

「ゲーム部もそうだし、委員長さんもそうだし、できるかぎりやっぱあがいてた。アドリブとかもそうだし、『脚本うち書きますよ』って交渉するのもそうだし、できるかぎり面白くしようとはしてたよ、私から見た限りだけど」

「マネージャーさん方は頑張ってたよ、マジで。すごくよく頑張ってた、偉いと思う俺は」

(「【VTuber老人会】"バーチャルさんはみている"を肴に老人会を開く【Icotsu・元葬儀屋V】」より。引用箇所は2時間8分45秒あたり)

 他のVTuberたちからも、当時を振り返るポストが続々投稿されました。出演者の一人であるときのそらは「懐かしいねー(๑╹ᆺ╹) 謎だったなぁ( •́ .̫ •̀ ) 今見ると感覚変わるかな?」と、絶妙なニュアンスを感じさせてくれる感想を述べています。

 2025年にデビューしたVTuber・悠針れいは「思い出のアルバムを観ているような懐かしい気持ちに…。当時は色々な反響があったと思いますが、今見るとエモいを強めに感じます😌」と、今だからこそ感じられる思い出をぽそりと語っています。

 VTuber・馬犬は「バーチャルさんはみている」にしかない味わいを説明しています。「とりあえずやってみようで終始ふわふわしたまま進んでたまに光るものがあったりして。めちゃめちゃ貴重だし凄まじいライブ感の面白さ。二度と出来ない」という、作品の挑戦と当時の勢いに対しての高い評価を述べていました。

 Amazonプライムでの評価は2.9(記事執筆時点)。とても高い評価とは言えません。賛否を論じ合うにもどういう切り口から語ればいいのか、当時のアニメ・VTuberファンの間に混乱を招いた作品だったのが思い出されます。今回は筆者目線で、見ていた当時の「バーチャルYouTuber」界隈の状況を思い出しながら、振り返ってみようと思います。

バーチャルYouTuberは「キャラ」であり「キャラ」ではない

 「バーチャルさんはみている」は、そもそも物語性のあるアニメではありません。この時点で、アニメファン視点からだと、引っかかりがあった人は多かったかもしれません。

 ミライアカリ、電脳少女シロ、猫宮ひなた、月ノ美兎、田中ヒメ、鈴木ヒナの6人がメインになってはいますが、このメンバーが作品の主役というわけでもありません。色々なバーチャルYouTuberをメインにすえた数多くのショートコーナーが間髪入れずに連続で繰り出されていく、ショートバラエティ番組の構成になっています。

 当時からバーチャルYouTuberが大好きだった筆者が第1話を見た時、実は“とあるワンシーン”で一回動画を止めてしまいました。

 第1話の序盤、世界初の男性バーチャルYouTuberを名乗っていたばあちゃるが、メイン登場人物を1人ずつ紹介するシーンが入ります。ミライアカリや電脳少女シロが通り過ぎる中、それぞれの個性の説明が入るのは確かに、キャラクターアニメの構成っぽい。

 6人目に月ノ美兎が登場。「皆さん、走ってはだめですよ、私のように清楚で内股で歩かなくては。こうです、オラオラオラオラ!」。

 このシーンを見た瞬間、配信で既に強く「個」を出していたバーチャルYouTuber「月ノ美兎」が、第三者によって作られたキャラクター「月ノ美兎」を演じていることに衝撃を受けてしまいました。頭を切り替えるのに時間がかかりました。「いまテレビの画面で見ているのは、僕の知っている『月ノ美兎』ではない何か……何を見ているんだ僕は……?」と。

 とはいえ、この点については、以前から「バーチャルさんはみている」出演者インタビューで語られていた部分でもありました。

 「アニメ『バーチャルさんはみている』 ミライアカリら6人が語る本人“役”出演」のインタビュー記事では、月ノ美兎本人から「『月ノ美兎』役月ノ美兎としていつもと違うわたくしを見ていただきたいですね 」というメタ的な発言が語られています。

 一旦ここを飲み込み直してから見直すと、物語性のあるアニメではなく、シュールなバラエティとして構成し直そうという番組側・役者側の挑戦を見て、楽しめるようになりました。

 中でも富士葵とバーチャルゴリラ(+たまにピーナッツくん)が、全く意味のないやりとりを短時間行う「富士アオイ公園」や、ときのそらがシスター・クレアに唐突にプチ相談をする「聞いてよしすたぁ!」は、この作品を象徴する重要なワンコーナーだったように感じられます。バーチャルYouTuberがテレビに出てミニコントをすること、それをシュールに振り切ろうとしていることに、作り手の意図を感じたからです。

 バーチャルYouTuberを集めて、平成のシュール系子ども向け番組「ウゴウゴルーガ」的なものを作ろうとしていたのだと見るならば、方向性はかなりわかりやすい。あるいは、昭和で例えるなら「カリキュラマシーン」か「巨泉・前武ゲバゲバ90分!」か。とりあえず、バーチャルYouTuber初期に生まれた混沌を混沌のままに集めてお祭りにする、というコンセプトなのだとしたら、挑戦のスタイルはわかります。

 さて、仮に全員が「番組のために作られたキャラクター」全振りなのだったら、もうちょっと受け入れやすかったかもしれません。

 ただ、2019年のバーチャルYouTuberは「キャラクター」的な側面を持つと同時に「キャラクター」ではなくなっていました。当時まだ知名度の低かった「バーチャルYouTuber」は「得体のしれないアニメキャラ的なもの」という認識があったのも事実です。一方で、深く見ている視聴者は「バーチャルYouTuber」が活動する思想のようなもの、いわば「それぞれが目指す自己表現のベクトルの違い」を感じつつある時期でもありました。

 6人のバーチャルYouTuberがやりとりをする教室の黒板に書かれた文字「アニメ感だしてく」。この番組が「多様化しつつあるバーチャルYouTuberのことを、一つの画面の中でどう表現すればいいのか?」というひずみの中であがき、進む道を手探りしていた迷いの片鱗の一言だったように感じます。

配信元: ねとらぼ

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