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「バーチャルさんはみている」狂想曲。みんな頑張っていた2019年…… “様々な影響をVTuber界に与えたすごいアニメ”を振り返る<あのVTuberに花束を>

「バーチャルさんはみている」狂想曲。みんな頑張っていた2019年…… “様々な影響をVTuber界に与えたすごいアニメ”を振り返る<あのVTuberに花束を>

「アクター=バーチャルYouTuber」とは限らなかった時代

 2025年現在、VTuber活動の主流は「バーチャルなアバターを用いた自己表現」だと思います。言うなれば、アクターの言動がそのままアバターを通じてVTuberとして反映されている、というスタイルです。

 しかし、運営スタッフが複数人いる場合など、必ずしも「アクターの意思=VTuberの言動」となる場合ばかりではありません。その最たる例のひとりが、キズナアイです。

 「バーチャルさんはみている」の前期オープニングを歌っているのはキズナアイでした。今も「親分」として多くのVTuberに慕われている、バーチャルYouTuberの始祖的存在です。彼女はオープニングで「AIAIAI」を歌ってはいますが、本編には出演していません(ちなみに後期オープニングは「バーチャルリアル『あいがたりない(feat. 中田ヤスタカ)』」。キズナアイは歌っていません)。

 AIを自称するキズナアイは、いわゆる「魂」と呼ばれるような、アバターとイコールにあたるアクターがいるスタイルではありません。“ボイスモデルを貸し出す”という形で声優・春日望が活動していましたが、声優本人の意思そのものが反映されているわけではないので、春日望=キズナアイではありません(KAI-YOU Premium「キズナアイとは何だったのか? 『関わるのをやめようと思ったことも』春日望が初めて語る誕生秘話」より)。

 キズナアイが生まれた2016年からのバーチャルYouTuber創世紀・拡大期には、このような運営チームによる管理のもとで動いていたバーチャルYouTuberが多く存在していました。その場合、バーチャルYouTuberたちの発言は「誰かの生の感情」なのか、それとも「作られた台本」なのか、というゆらぎが生じます。

 このゆらぎこそが、初期バーチャルYouTuberの面白さの一つでもありました。見る側の「見立ての美学」のようなものが問われたからです。言うなれば、人形劇・人形浄瑠璃を見る時に「黒子がいるじゃん」とか「人形じゃん」と言わずに、出された作品に向き合って「表現として差し出されたもの(バーチャル)を現実(リアル)として受け取る遊び、視聴者と作り手の共犯関係」がそこにありました。

 これがうまくハマっていたのが、当時のゲーム部プロジェクトでした。4人組の男女混合部活のバーチャルYouTuberグループで、台本があるであろうストーリー仕立て動画は、チャンネル内でも高い人気を誇っていました。

 そのゲーム部プロジェクトが「バーチャルさんはみている」の中でやっていたのが、「VIRTUAL WARS」というシリーズ。他のコーナー以上に台本がはっきり組まれており、ハチャメチャコメディをちゃんとやろう、というのがしっかり伝わってくる構成でした。ここに関しては、スタンスがはっきりしていたので、「キャラクターが存在するアニメ」というスタイルに綺麗にハマっていたように感じられます。

 さて、「バーチャルさんはみている」のゲーム部プロジェクトの姿は、色々な意味で「貴重な資料」として残ることになってしまいました。

 というのも後日、ゲーム部プロジェクトでは担当の「声優」からの降板発表があり、アバターはそのままで全員の声が入れ替えになる、という「バーチャルYouTuber」と「キャラクター」の境界線の崩壊を経験することになるからです。運営主導によるキャラクター事業型から「自己」を表現するバーチャルYouTuberへと変化する、時代の移り変わりを象徴するような出来事でした。

感想に思想が問われる「バーチャルさんはみている」

 個人でも簡単にVTuberを始めることができて、新しい表現の可能性がバンバン広がっている2025年現在。仮にWebをひっくり返すような文化的崩壊が起ころうとも、「VTuber」というアバターで自己を表現をするという技法そのものが完全消滅することは、おそらくないと思います。

 しかし、2018年から2019年のバーチャルYouTuberは、規模が全然違いました。まだ一般的に認知されているとは言えなかったこの文化、いつなにが起きて芽生え始めたムーブメント全部が消えてなくなるかわからない。ファンと作り手のみんなでポジティブに支えないと、この文化自体が跡形もなく瓦解する可能性がある。今の「にじさんじ箱推し」「ホロライブ箱推し」のようなノリで、バーチャルYouTuber文化全体を応援する「VTuber箱推し」的な思想もありました。

 そのようなナイーブな空気感もあって、「バーチャルさんはみている」を褒めるにしても批判するにしても、自分はどう「バーチャルYouTuber」のことを考えているのか、語る前に自身の前提スタンスを明示する必要性が迫られる瞬間が発生してしまいがちでした。

 仮に褒めるにしても、バーチャルYouTuberの活躍の拡大を褒めるのか、地上波テレビに出たことを褒めるのか、作品の挑戦を褒めるのかで視点が異なります。

 作品を批判する場合、なぜそれを自分が受け入れられなかったのかを説明するために、「バーチャルYouTuber」とは自分にとってどのようなものなのかをいったん咀嚼し、説明できるだけの語彙力が要求されました。バーチャルYouTuberファン以外の人が、直感的な部分で「面白いかどうか」を評価するのと異なる、「バーチャル」に対しての考え方に向き合わなければいけない、ハイコンテクストな壁が立ちはだかりがちでした。

 2019年から2025年、この6年間に多くのバーチャルYouTuber視聴者、そしてVTuberたちが「バーチャルさんはみている」を語る際に、一瞬言葉に詰まっているのを見ると、もしかしたらその人の中でも筆者と同じように「バーチャルYouTuber観」の葛藤があったのかもしれない……なんて感じてしまうのです。

 加えて、ニコニコ生放送とPeriscopeでは、テレビのオンエア前後にVirtualCastを利用したフリートークも行われていた、というのを知っているかどうかも大きな差になります。番組自体が「一連のバーチャルYouTuberを題材にした企画の一部」のような形式だった……というのは、今は参加者の証言以外の記録が残っていないので、説明がとても難しい部分です。

 2018年12月31日には、当時の名だたるバーチャルYouTuberを集めたニコニコ生放送「バーチャル大晦日2018〜みんなで年越しブイッとね!〜」が盛り上がりました。2019年4月27日、4月28日の「ニコニコ超会議2019」では「トーク&LIVEイベント バーチャルさんがいっぱい」が開催され、バーチャルYouTuberをフィーチャーした大規模なライブイベントも行われました。それも込みの、ニコニコ生放送ならではのイベント型エンターテインメントだったのだと考えると、この作品への視点がまた一つ変わってきます。

配信元: ねとらぼ

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