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「バーチャルさんはみている」狂想曲。みんな頑張っていた2019年…… “様々な影響をVTuber界に与えたすごいアニメ”を振り返る<あのVTuberに花束を>

「バーチャルさんはみている」狂想曲。みんな頑張っていた2019年…… “様々な影響をVTuber界に与えたすごいアニメ”を振り返る<あのVTuberに花束を>

「ヒトガタ」というバーチャルYouTuberの魂の咆哮

 「バーチャルさんはみている」のエンディング曲は、HIMEHINA(田中ヒメ・鈴木ヒナのユニット)の「ヒトガタ」という曲でした。

 この曲を起用した事自体が、2019年の「バーチャルYouTuber」を考えた「バーチャルさんはみている」の最大の功績だったように感じます。「ヒトガタ」は「バーチャルYouTuber」とは何なのかを問う、深くメスを入れる楽曲として思想性がすこぶる高いです。少なくとも、お気楽を目指す番組のエンディングで、何も考えずに流せるような作品ではありません。

 出だしから畳み掛ける「you know we are not a doll」という歌詞。私たちは、人形じゃない、と突きつけてきます。一部ですが、歌詞を引用します。

一夜 人の世に立ち

片欠けの身の果てを見ていた

ヒトよ ヒトよ とせがみ

生命の光

泣いてもがいて 輝いている

生命の光

胚になって 愛しあっている

歪んだ ヒトガタ

(「HIMEHINA『ヒトガタ』MV」より)

 HIMEHINAのオリジナル楽曲は、考察できる要素を含んだ作品が多いですが、「ヒトガタ」もその一つ。「バーチャルYouTuber」という人の心を持っていながら人間の姿ではなく、アバターで活動している存在は、なぜその表現をあえて選んだのか……それは2019年当時、大きな命題の一つだったように思えます。リアルの姿ではなく「ヒトガタ」で生命の光を輝かせようという選択肢を選んで、そこに魂をかけているのには、活動者それぞれ理由があるはずです。

人型の姿 見せ方 偽型 似せ方も知らず光から染み出し

染み出したココロ痛みのち人成り 人ならざる者の生命を謳う

(「HIMEHINA『ヒトガタ』MV」より)

 「バーチャルYouTuberのアニメ化」という挑戦を行うこの番組を放映するにあたって、少なくともHIMEHINAの2人と「ヒトガタ」を作ったスタッフには、「人ならざる者の生命を謳う」存在として、バーチャルYouTuberの存在意義を強く見据えた上で、番組に挑んでいたようです。

 このHIMEHINAの「ヒトガタ」思想路線で、文学的・哲学的な思想表現も含んだ「バーチャルYouTuberとはなんなのか?」というハードなアニメが作られていたら……。それはそれで、テレビでのVTuber表現のありかたは少し変わっていたかもしれません。

 2019年、すでに多種多様なバーチャルYouTuberが現れ、それぞれに活動の思想もあったと思います。それを一つにまとめることができないからこそ生まれたカオスが「バーチャルさんはみている」だったのだとしたら、それはそれで「バーチャルYouTuberのアニメ化」挑戦の一形態として記録的な意味があったのだろうと、今だからこそ感じられます。

 序盤で紹介した悠針れいが言っていた「思い出のアルバム」という、内容の如何を超えたところにある感情を刺激する感覚こそが、当時を知る人達と活動していたバーチャルYouTuberたち、そして今それを見て活動しているVTuber達にとって、最も的確かもしれません。アルバムの写真には、記録されていること自体に価値があります。

 ちなみに2019年、「バーチャルYouTuber」「VTuber」によるテレビ番組は他にも作られており、それぞれしっかりした企画意図のもとで作品・番組として放映されていました。

 ときのそら、響木アオ、猿楽町双葉が俳優として姉妹を演じるコメディ「四月一日さん家の」シリーズは、2019年4月からアニメではなく「ドラマ」の形式で撮影・公開されました。アバターは3DCGではありますが、あくまでもテレビドラマの俳優として3人が演技しており、カメラ撮影のアングルもドラマと同じようにこだわりを入れた作品で、シチュエーションコメディとして好評を博しました。

 「ガリベンガーV」シリーズ(現・ガリベンチャーV)は、2019年1月からプロの専門家を招いてバーチャルYouTuberたちが勉強を教えてもらうという、学習番組スタイルで放映されました。電脳少女シロを中心としたバーチャルYouTuberたちが、いうなれば雛壇芸人的ポジションで、バイきんぐ・小峠英二が「芸人側からバーチャルYouTuberをいじり倒す」という姿勢を取っていたことで、実写とバーチャルYouTuber、バランスのいい教養バラエティとしてユニークな映像づくりになっていました。

 現在では、ナレーターやアニメ声優、歌番組など、VTuberが他のリアルの演者と区別なく並んでいる光景も少しずつ増えてきました。しかし、テレビ番組まるまるVTuberだけで構成されているというのは、あまりありません。一方で、VTuberをメインにした「公式番組」を運営会社が作成することが増えました。

 たとえば、YouTuberチャンネルの「ROF-MAO / ろふまおチャンネル【にじさんじ】 」は、VTuber・ライバー主体ではなく、にじさんじ公式が番組を制作・運営しており、高いクオリティの「VTuberのバラエティ」を定期的に放映して人気があります。各回の見せ方の作り込みや編集のレベルは、テレビ番組のテンポの良さと遜色なく、海外ロケなどまで行っています。

 ここに関しては「バーチャルYouTuberだから」というよりも、他のリアルな芸能人同様に、バラエティなどの番組をプロが手を入れて作るのなら、動画共有サイトでの投稿のほうがより自由度が高いという、テレビとWeb媒体の表現乖離のほうに時代が変化してきたからかもしれません。

 テレビやWebの表現手法の多様化、VTuberという存在への意識の変化、集めようと思っても簡単に集められない運営企業の分散化、視聴者層の多様化、コロナ禍前後の大きなエンタメの変容などを考えると、今となっては「バーチャルさんはみている」は、もうやろうと思っても二度とできない「アニメ」でしょう。月ノ美兎が言ったように、色々な意味で今後さらに「伝説のアニメ」として語り継がれていくことになりそうです。

配信元: ねとらぼ

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