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金井夕子の『パステルラヴ』はヒットしなかったが「令和になっても細く長く愛される名曲」

金井夕子の『パステルラヴ』はヒットしなかったが「令和になっても細く長く愛される名曲」

金井夕子『パステルラヴ』
【スージー鈴木の週刊歌謡実話第16回】
金井夕子『パステルラヴ』作詞:尾崎亜美、作曲:尾崎亜美、編曲:船山基紀 1978年6月20日発売

アイドルの王道パターンから外れていた

今回は比較的マニアックな曲かもしれません。チャート最高位は35位。1978年、当時絶頂を極めていたピンク・レディーを輩出した日本テレビ系『スター誕生!』(スタ誕)からデビューした歌手としては、少しばかり地味な結果となりました。

そう、金井夕子は、あらゆる意味でスタ誕らしくなかったのです。

まずはデビュー時19歳という年齢が、スタ誕出身としてはやや高め。声も中低音部がふくよかなアルトで、スタ誕系女性アイドルのキャピキャピ・ソプラノに対して異質でした。あと正直、見てくれがあまり垢抜けなかった(失礼)。

などなど、あらゆる面において金井夕子は、スタ誕からデビューするアイドルの王道パターンから、外れていたのです。

では、この人、この曲が、まるで印象に残らなかったかというと、そんな単純な話ではない。というか私は『パステルラヴ』を、スタ誕が放った屈指の名曲として推したいと思います。

前回も書いたように、当時の音楽シーンはフォーク、ニューミュージックに向かっていて、一方歌謡曲は守旧勢力に見られつつあった。

そんな中、金井夕子のこの曲は、スタ誕が時代の流れを察知して打ち出した「スタ誕版ニューミュージック歌謡」だったと言えるのです。

何といっても作詞・作曲が、前年『マイ・ピュア・レディ』をヒットさせたニューミュージック界の新星=尾崎亜美なのですから。阿久悠が作詞し都倉俊一らのスタ誕審査員が作曲する、それまでのスタ誕発定番曲の真逆を行くものでした。【スージー鈴木の週刊歌謡実話】アーカイブ

令和に聴いても“ニュー”なミュージック

そんな尾崎亜美によるメロディーは実に新鮮。「♪愛しているの 愛しているの あなたのそばを離れない」のくだりは、当時歌番組で見て聴いて「あぁニューなミュージックが歌謡界に押し寄せてきているな」と感じましたよ。

シングル盤の歌詞カードには楽譜が載っているのですが、「♭9」やいわゆる「分数コード」の入ったコード進行も実にニュー。

さらに、前年のレコード大賞に輝く沢田研二『勝手にしやがれ』で一気に名を上げた船山基紀による編曲もまたおニューで、そしてナウ(死語)。特にイントロのキラキラしたピアノの響きは、一度聴いたら忘れられません。

そういえば、同じくこの年にスタ誕からデビューした石野真子のデビュー曲『狼なんか怖くない』の作曲は吉田拓郎。前回取り上げた渡辺プロダクション同様、スタ誕もフォーク~ニューミュージックの取り込みモードに入っていたのでした。

そんな『パステルラヴ』、正直、成功したとは言い難い1曲です。でも、ヒット曲ではなかった分、名曲として細く長く愛され、今でもたまにラジオでかかったりします。もちろん私も自分の番組でもかけました。

そして私は、令和に聴く『パステルラヴ』に思うのです。

「あれから47年経っても、まだまだニューやなぁ…」

「週刊実話」12月4・11日号より

スージー鈴木/音楽評論家
1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。
配信元: 週刊実話WEB

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