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今のアニメは「メガヒットとダークホースの二極化時代」 ――アニメデータインサイトラボ大貫氏が語る、アニメの話題化メカニズムとヒットの方程式

今のアニメは「メガヒットとダークホースの二極化時代」 ――アニメデータインサイトラボ大貫氏が語る、アニメの話題化メカニズムとヒットの方程式

ファンとトレンド、二つのスコアで見るヒットの方程式

――アニメデータインサイトラボでは「ファンスコア」と「トレンドスコア」で分析しているそうですね。
大貫:はい。そもそもアニメは委員会の構造上、広告的なKPIを観測するのが難しく「客観的な戦略が数字を用いて立てにくいのが特徴」です。これだけでもかなり話せるので今回は割愛します。ただ、なにかしら目標になる「値やデータ」は作らないとアニメ側も何も改善も戦略も立てらない。戦略の目標値がないと、声が大きな人が感じる「効果がある(が数字的な根拠にかける)企画」や人の感覚に左右されてしまう。そこで、いったん誰もがわかりやすい分類をして大まかに作品を分析していこうということで作りました。

データがないと感覚的になりすぎる。これが最適解だとまだ思えてはいませんが一定の方針が立てられて、効果測定をしながらアニメの宣伝ができるようにはなったと自負しています。

ファンスコアは投稿量、つまり熱量。トレンドスコアは検索量、つまり一般層の到達度です。この2軸のバランスがヒットを左右します。ファンスコアが高ければ、広く知られていないかも知れませんが熱量の高いファンが多くグッズやライブなど“ファンビジネス”に強い。トレンドスコアが高ければ、関心が高い人が多いわけではありませんが認知が高いので広告・コラボ型ビジネスに強い。両方高いと“総合的ヒット”になります。たとえば『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』はその典型ですね。

――ファンが「語りたくなる」アニメの共通点は何だと思いますか?
大貫:一言で言えば、議論を呼ぶ作品です。会話のきっかけになりやすいものですね。「良かった」ではなく「どう思った?」が飛び交う。賛否や解釈の違いがあるからこそ、コメントが生まれる。そしてコメントが増えると、SNSのアルゴリズムが作品をお勧めしやすくなるので押し上げてくれる。また、“真似したくなる構造”を持っていることも重要です。

TikTokで流行る作品は、再現したくなる台詞や演出がある。相乗り層は再現しやすい仕掛けを好みます。アニメでも“再演したくなる瞬間”を仕込めると、SNS上での持続力が全然違います。

――拡散を生むうえで、制作・宣伝サイドが気をつけるべきポイントは?
大貫:まず、宣伝設計の最初に「目的地」を設定すべきです。視聴者は“どこまで観れば気持ちいいのか”を知りたがっています。だから「この回を見れば心を動かされる」「ここから怒涛の展開」といった“ゴールの提示”を、明確に伝えることが大切なんです。もうひとつ重要なのは、“導火線”と“余白”を仕込むこと。盛り上がるきっかけを意図的に作る一方で、あえて説明しきらない“議論の余白”を残す。
「このシーンの意味は?」「誰が正しいのか?」と視聴者が考える構造を作ることで、SNS上に自然な議論が生まれる。議論がコメントを生み、コメントが拡散を生む。

今の時代、説明しない勇気もクリエイティブの一部です。

ここまでデータ的なものの重要性をお伝えしてきた感じになっていますが、デジタルだけでなくアナログの“偶発的な接触”も侮れません。「ステマ忌避層」や「企業に踊らされたくない層」は企業のターゲティングされている広告や有名人の案件広告に敏感です。WEB広告やインフルエンサーを用いて行う徹底したターゲティング広告の匂いを感じると、コスパよく踊らされないぞと身構える傾向があります。自分だけが狙い撃ちして行動を促されてたまるか・・・みたいな感じでしょうか。

ところが、イベントやテレビCM、交通広告ほかアナログな広告は精緻なターゲティングがされないからこそ、人々の共通の認識や話題になりやすく、自然で偶発的な会話に発展しやすいので踊らされたくない!みたいな反発が少ないです。実際、手間も費用も掛かるのでコスパが悪いから、コスパよく踊らされたくないって思わないのかも知れませんね。ここまでお金を掛けるコンテンツなら安心。みたいな投稿やインタビューはよく見かけます。ある意味アナログの純広告はもはや自然な広告なのかもしれません。

まあアニメの宣伝では、宣伝予算に対して値段が高すぎて、あまり使えないので、そのアナログ純広告は使えず、コスパのよいWEB広告や自然な盛り上がりを仕掛けるんですが(笑)

――時代はアナログだと?(笑)
いや、そこまで言うつもりはないですよ。ただ、結局は拡散は人々のコミュニケーションの結果という見方もあるんじゃないかなと思います。もちろん作品が面白いからっていうのは前提としてあって、そのあとは人々のコミュニケーションのネタになったものが広がっていく。誰でも発信できるから、誰でも起点になりうるわけです。昔はアナログなオールドメディアが主流。最近はSNS、WEBが主流で、その主流にフォーカスしたわけですが結局両方なんですよね。

インフルエンサーの方々、マスコミ関係の方々、SNSユーザー、新聞、雑誌、WEB、他すべての媒体の方々、ファンの方々、全方位のコミュニケーション。そういう意味では人間のコミュニケーション。私が関与しているアニメ作品は元々私がテレビ局だってこともあってその時のお世話になった方々が私とのコミュニケーションの結果として放送してくださっていて、それが私の関与作品の特徴としてSNSで「ブシロードネット」とか言って貰っています。

私が局の方々に「こんな作品のプロデューサーしているんですよ~」なんてなんとなく言ったら、「アニメ面白そうだから放送するよ!」みたいな感じで放送が決まったりします。今では一部のSNSユーザーさんからネットワークなんて言っていただいていて会話のネタにして頂いている。私の放送局さんとのなんとなくのコミュニケーションの結果でその放送局さんのエリアで放送されてたくさんの人々に見ていただき、SNSでも会話になった。これも私という人間のコミュニケーションの結果なのかなと思ってます。

さっきまでデータデータ言ってて結局アナログなのかよって思われるかもなんですが、データ「も」大事なんだよってことが言いたかったのです。どっちも大事。

データは「数字」ではなく「物語」

――データを現場にどう活かすべきでしょうか?
大貫:まず、データは“敵”ではなく“味方”です。数字を見ることは、感覚的な発想を否定することではなく、感覚を裏付ける根拠を得るためのプロセスなんです。SNSや視聴データは、ユーザーがどう感じたかを示す“声の集積”です。

たとえば投稿分析で、「どの層がどんな言葉で作品を語っているか」を見れば、ファンの“共感ポイント”や“違和感ポイント”がすぐにわかる。それを企画・宣伝・制作にフィードバックしていくことで、より“ファンと共創する作品づくり”ができるようになります。また、数字だけでなく“文脈”を見ることが大事です。投稿数が多いからヒット、ではなく、なぜその投稿が生まれたのかを読み解く。数字の裏にある感情や動機を掘ることで、次の企画のヒントになります。それと、イベントやテレビなど“オフライン接点”のデータも重要です。配信だけでは見えない層がまだまだ多い。地域イベントや店舗展開などを含めた立体的なデータ設計をすることで、より広い層に届く可能性が生まれます。

配信元: ガジェット通信

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