猟友会の実情とキャラクターたち
――『猪之噛』には、マリアや剛太郎、蓮司、金時といった個性豊かな猟師たちが登場しますが、よじょうさんの実際の猟友会の雰囲気はいかがですか?
よじょう 僕のところは、そこまで個性豊かではないですね(笑)。でも、仕切っている人は剛太郎さんみたいな長老タイプで、犬を飼っていて、勢子(せこ)として指示を出す感じはまさにそのままです。小説の猟友会は魅力的すぎて、入りたくなるくらいでした。
矢野 剛太郎のモデルになった方は、実際はもっとヘラヘラしたおじちゃんで、軽トラで焼酎のパックを買って帰るような人でした(笑)。でも、そういう人たちが命と向き合っているというギャップが面白いんですよね。
よじょう 登場人物たちはやっぱりエンターテインメントだな、と思う部分があって面白かったですよ。でも本当に豪快な人は多いかも。猟師あるあるなんですが、年配の猟師の方って、ほんまに熊と闘った、みたいな武勇伝いっぱいあるんですよ(笑)。
矢野 あるんですか、本当に。
よじょう 真実かどうかはわかりません(笑)。熊と対峙したあのとき、弾が一発しか入っていなくて、撃ったが外してしまったから最後は銃床でどついた、みたいな……。ほんまか、それ、とは思ってますけど(笑)。
矢野 武勇伝は多少誇張されたりもするでしょうけれど、獣と渡り合ってきてはいますよね。作品の蓮司が猪にやられるシーンも、実際に動画で見させていただいた出来事をもとにしたんです。
よじょう 恐ろしいですね。猪は牙だけじゃなく噛む力もすごいので気をつけろとは言われます。猟友会の人も噛まれて指が飛んでる人がいましたし。罠にかかった足をちぎって逃げたりもします。
矢野 お互いに命がけなんですよね。
狩猟と芸人という二つの顔
――お笑い芸人と猟師というお仕事には何か共通点はありますか?
よじょう 正直、結びつかないですね(笑)。芸人は前に出る仕事で、猟師は身を潜める仕事。真逆です。
矢野 僕はお笑いが好きで、よじょうさんの淡々としたボケが好きなんです。猟師にもそういう淡々としたタイプが向いているのかもしれませんね。
よじょう そうですね、その感じは猟に出ていますね。猟というか、獲物の獲り方には人間性が出るような気はします。作品の中に登場する隣町の猟友会みたいな蛮勇タイプというか、荒々しいタイプが出てきましたが、そういった方ももちろんいます。逆に淡々とする方はほんまに、獲ってもテンションあがってへんのちゃうみたいな。
矢野 相方の奥田さんは、狩猟免許を取ったことを伝えたときになんとおっしゃっていたんですか?
よじょう もともと、コロナ禍のときに「飯食えるような資格とか取ったらいいかな」みたいなことを二人でしゃべっていたんですが、僕が狩猟免許を取ったと言ったら、「ほんまに飯食えるやつや」って言われましたけど(笑)。でも、さっきも言いましたが、時代も相まって芸人の仕事ともリンクしてきているんですよね。
――狩猟免許の取得には、かなり厳しい審査があると伺いました。
よじょう そうですね。僕は東京で申請しましたが、親族や近隣住民への聞き取り調査が広範囲に行われて、半年くらいかかりました。僕の取得した免許は、銃の保管もロッカーで鍵をかけて、弾とは別に管理しないといけない。一発でも申請外の弾があればアウトです。
矢野 わな猟も、朝晩の見回りが義務付けられているんですよね。
よじょう そうです。でも今はセンサー付きの罠があって、LINEで「かかったよ」と通知が来るんです。教えてもらっている師匠もそれを使っていて、通知が来たらすぐに現場に向かう。技術の進化で、対応のロスが減ってきています。

