埼玉から都心へ、都心から埼玉へ向かう人が交差する池袋は、常に混雑している。
若者は肩で風を切り、客引きはしつこく、酔っぱらいと肩がぶつかりそうになるたび、心の中でため息をつく。
そんな池袋駅西口の中心『ロサ会館』横にある『千登利』は、昭和24年創業の老舗だ。
騒々しい繁華街の中で、行儀よくカウンターに座ったおやじがグラスを傾ける様子は、文字通り安息の地といえよう。
ほとんどの客が頼むのは名物の牛肉豆腐。
たっぷり乗せられたネギを、茶色のつゆに浸す。辛いネギと甘じょっぱいつゆ。これだけで立派なつまみになる。
ネギの下にある肉を丁寧にほぐして一口。豆腐を少し崩してもう一口。それをビールで流し込む。
最後に残ったつゆも忘れずに。固い椅子にお尻がなじんできたころ、ビールは日本酒に変わるだろう。
街の喧騒(けんそう)から扉で隔てられた店内は、まるで異世界のようだ。髪の毛が真っ白になった客たちは、若い頃からこの場所を大事に守ってきた。
だから、『千登利』には静かな秩序がある。この店のおかげで池袋が好きになれそうだ。
東京都豊島区西池袋1-37-15
03-3971-6781
営業時間:16時~23時(日曜~22時)
休み=月曜
撮影・文/キンマサタカ
「週刊実話」2025年6月12日号より
※情報は取材当時のものです
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