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【F1分析】なんともチグハグになってしまった、角田裕毅のラスベガスGP決勝の戦略。一体何を目指していたのか?

【F1分析】なんともチグハグになってしまった、角田裕毅のラスベガスGP決勝の戦略。一体何を目指していたのか?

F1ラスベガスGPの決勝レースで、角田裕毅(レッドブル)は12位となった。ピットレーンからスタートしながら入賞を目指したが、不運とちぐはぐな戦略によって、思うように順位を上げられなかった。

 角田にとって今年のラスベガスGPは、忘れたいような1戦だったに違いない。フリー走行は軒並み好調。FP1ではチームメイトのマックス・フェルスタッペンさえ上回ってみせた。ようやく彼本来の速さを見られる、そんなグランプリがやってきたように思えた。しかしその期待は、予選からガラガラガラと音を立てて崩れていった。

 チームは予選Q1で角田のタイヤの空気圧をミス。これにより角田はまったくパフォーマンスを発揮できず、19番手でQ1敗退となってしまったのだ。

 チームはここからなんとか挽回しようと、様々な策を講じた。しかしその全てが裏目に出てしまうという信じられないような結末となった。

 まずQ1敗退となったことで、パワーユニット(PU)の全コンポーネントを変更すると同時に、リヤウイングのセッティングも変えた。このリヤウイングがどう変更されたのか、詳しくは言及されなかったが、写真を見る限りでは、フラップ後端のガーニーフラップが取り外されているのがわかる。

■決勝に向け、リヤウイングのガーニーフラップを外した?

 このガーニーフラップとは、ウイングの後端にL字型のセクションを追加し、ダウンフォースの発生量を僅かに増やそうというモノだ。ただその反面、空気抵抗も多少は増えるため、最高速も伸びにくくなる。FP3の途中で、角田のマシンにこのガーニーフラップが取り付けられるシーンが国際映像に映し出されており、予選でもこれが取り付けられたまま走行していたのが確認できる。一方でフェルスタッペンは、予選も決勝もこのガーニーフラップを取り付けたまま走った。

 この変更には、後方から順位を上げていく上で、最高速を伸ばして他車をオーバーテイクしやすくする、そんな狙いがあったはずだ。ただ、結果的にはオーバーテイクをうまく成功させることができなかった。ダウンフォースが減ったことで、タイヤを痛めてしまうことにも繋がっていたかもしれない。

 角田は決勝後に、こんなことを言っている。

「いくつかの部分を変更したんですが、正直に言って正しい方向には行かなかったと思います」

 決勝レースでは大胆な戦略を採った。角田はミディアムタイヤを履いてスタートしたが、1周目を走り終えた段階でピットイン。ハードタイヤに履き替えた。チームとしては他のマシンと異なる戦略を採り、できるだけフリーエアで走ることでポジションを上げようとしたという。しかし2周目にバーチャル・セーフティカー(VSC)が宣言されたことで、複数のマシンがピットインして角田の前でコースに復帰……これで当初の目論見は崩れたとチームは説明する。

 確かにそんな側面もあるだろうが、不可解なこともある。それは今回の状況であれば、ピットインするのをもう1周待ってもよかったのではないかということだ。

 スタート直後、ザウバーのガブリエル・ボルトレトがターン1へのブレーキングをミスしたことで、数台のマシンに追突。大混乱となった。そしてコースの各所にデブリが散乱……ターン1ではダブルイエローが振られ、マーシャルがコース上に立ち入ってデブリを回収した。またリヤウイングを大破させたランス・ストロール(アストンマーティン)のマシンからもデブリが脱落した。

 1周目にはVSCが宣言されなかったが、その後にVSCもしくはSCが出される可能性は十分にあった。ストロールはコース脇に停まっていたし、このマシンから脱落したデブリは走行ライン上に近いところにあったからだ。レッドブルとしては、角田をピットストップさせるかどうか、その判断をもう少し先送りすることもできたはずである。

 しかし”予定通り”に1周目にピットストップしたことで、角田は1周後のVSC中にタイヤ交換を行なったアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)から約10秒遅れてしまうことになった。目論見通りフリーエアの箇所を走ることができたが、この遅れは痛かったと言えるだろう。

 ただこのハードタイヤを履いた角田のペースは速かった。

■クリーンエアの角田のレースペースはまずまず

 このグラフは、各車のレース中のペース推移を折れ線で示したモノだ。レース前半の角田のペース(赤丸の部分。紺色の点線)は、上位と比べても遜色ないものであった。

 ただ角田には徐々に障壁となる存在が迫ってきた。それがアルピーヌのフランコ・コラピントであった。

 コラピントはレース序盤にピットインせず走り続けていたがペースは遅く、すぐにアントネッリに抜かれ、その後角田の目の前に現れた。角田もすぐにオーバーテイクしたいところだったが、なかなかオーバーテイクすることができなかった。

■ハミルトンも遅いマシンに引っかかった

 こちらのグラフは、レース中に各車のポジションの推移を、折れ線で示したものだ。

 結局角田は、コラピントに10周あまりの間付き合わされることになってしまい(グラフ赤丸の部分)、オーバーテイクを仕掛けにいった隙を突かれてフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)やオリバー・ベアマン(ハース)などに立て続けに抜かれてしまうことになった。これで苦境に陥ってしまった。

 角田がコラピントをなかなか抜けなかったのは、前述のセッティング変更も関わっているかもしれない。ダウンフォースを削減したことでストレートスピードを伸ばしたが、コーナー立ち上がりのトラクションが足りなかったのか、DRSゾーン前に十分に接近することができず、オーバーテイクに至らなかったと考えるのが自然であろう。

 そもそも今のF1マシンは、オーバーテイクが極端に難しい。タイヤ履歴に差がなければ特にだ。

 今回、本来ならば格下であるはずのマシンを抜くのに苦労したのは、角田だけではない。フェラーリのルイス・ハミルトンも、序盤にはベアマンを先頭としたトレインに封じ込まれ(グラフ青丸の部分)、その後はニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)に抑え込まれた(グラフのオレンジ丸の部分)。

 さて、角田の話題に戻そう。

 レース終盤には、角田の戦略がまったくうまくいっていなかったことを示す最大の事例があった。それが2度目のピットストップだ。

 角田は抑え続けられていたコラピントがピットストップした2周後、27周目に2度目のピットストップを行ない、ハードタイヤからミディアムタイヤへと履き替えた。ミディアム→ハード→ミディアムという戦略である。

 しかし一部の人は、おかしいことに気付いたはずだ。

 今回の決勝レーススタート時、角田も含めほとんどのドライバーは、ミディアムタイヤが1セットしか残っていなかった。つまり角田は、スタート時に履き、1周目にピットストップした際に外したミディアムタイヤをもう一度履き直したということだ。長くF1を見てきたが、一度外したタイヤを再び使うという事例は覚えがない。

■結局各車が1ストップに……

 おそらく陣営としては、多くのマシンが2ストップになるのではないかと予想していたのではないかと見られる。これに対抗するため、角田を1周目にピットインさせ、その後をハード→ハードと繋ぐ戦略を考えていたのではないだろうか。本来ならばハード→ハードという戦略を採りたかったが、レギュレーションでレース中に2種類のコンパウンドを使わなければならないと定められていたため、1周目にその義務を消化し、その後をクリーンエアの中、ハード→ハードと繋ぐことで順位を上げようと目論んだのだろう。

 しかし今回のレースは、蓋を開けてみればデグラデーション(タイヤの性能劣化)が少なかった。ひとつ目のグラフは軒並み右肩上がり……つまりタイヤの劣化がほぼ見られなかった。完走した中で2ストップしたのは角田以外にはリアム・ローソン(レーシングブルズ)のみだった。

 本来ならば角田は、1周目に履き替えたハードタイヤでフィニッシュを目指すべきだったはずだ。実際にそれを成功させたのがアントネッリで、2周目にピットストップすると残りをハードタイヤ1セットのみで走り切り、3位表彰台を手にした。

 ただチームは、角田に2ストップ目をさせた。もしかしたら、コラピントの後方で乱気流を受けた状態で長く走ったことで、タイヤを痛めてしまったのかもしれない。そして結局、ミディアムタイヤを再び履いた。つまりタイヤ履歴の上ではハード→ミディアムという1ストップと変わりなく、結果的には1周目のピットストップは丸々無駄になってしまったということだ。

 チームが説明するように、1周目にピットストップして履き捨てるつもりだったのであれば、ミディアムタイヤを履いてスタートするという選択もありえない。ソフトタイヤを履くべきで、アントネッリもそうしていた。ソフトタイヤは、今回予選が雨だったこともあり、各車とも豊富に新品が残っていたのだ。

 結果的に2ストップでは勝負権はなかったし、しかもミディアムタイヤでのペースは、それほど優れたものではなかったのだ。結局何を狙ったのかわからない、そんな戦略になってしまった。

 角田はレース後、「運という言葉で片付けるのは好きではないですが、今週末は本当に運が悪かった」と語った。またレッドブルのモータースポーツ・アドバイザーであるヘルムート・マルコ博士は「彼には不運が付き纏っているようだ」と語った。しかし、”運”という言葉で片付ける以前に、採る戦略がいずれもチグハグだったような気がしてならない。

 角田がレッドブルに加入した直後は、予選で下位に沈んだとしても、素晴らしい戦略でなんとかポイントをもぎ取る、もしくはそれに迫る、そんなレースもあった。エミリア・ロマーニャGPやスペインGPがまさにそうだった。

 今季残りは2戦。レッドブルにはなんとか当時のような好戦略を見せ、角田を後押ししてほしい。

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