高価な化粧品を試しても思うような効果が得られない、敏感肌でなかなか合う商品が見つからない……と深い悩みを抱える女性は多いのではないでしょうか。
そんな方にこそ注目してほしいのが、日本の発酵文化が育んだ自然由来の美容成分です。
今回は、岩手県最古の酒蔵「吾妻嶺酒造店」の酒粕から生まれたスキンケア化粧水「1684 酒かす化粧水」を開発した株式会社1684の代表取締役社長・古川恵美さん、そして美容皮膚科医の久野賀子医師をお招きし、その魅力に迫ります。
2025年にはグッドデザイン賞も受賞した同商品に込められた想いや、酒粕スキンケアの科学的根拠について、鼎談形式で詳しくお聞きします。
日本酒造りの現場で見つけた美肌の秘密

__酒粕を使ったスキンケア商品を開発されたきっかけは何だったのでしょうか。
古川さん:きっかけは、実は蔵元でした。
日本酒づくりをする中で、生み出される副産物の酒粕。
一部は食用として使われていますが、その多くは産業廃棄物として捨てられてしまっています。
この酒粕を何とか再利用できないか。
昔から、「杜氏の手は白い」という言葉があるように、日本酒に接する人の肌はきれいだと言われていたことから、「酒粕を使ったスキンケアが作れないかと。
__それが商品開発のきっかけだったのですね。
古川さん:はい。調べてみると、酒粕には肌を整える成分が豊富に含まれていることが分かりました。
実際に毎日酒造りに携わっている蔵元やおかみさんの肌がきれいだなと感じていたこともあり、素敵な着眼点だなと思ったんです。
__久野先生、医学的な観点から見て、なぜ酒粕が肌に良い影響を与えるのでしょうか?
久野医師:酒粕には、アミノ酸やビタミン、ミネラルなど肌にとって有益な成分が豊富に含まれています。
特に注目すべきは、近年の研究でその機能性が解明されつつある「α-エチル-D-グルコシド(α-EG)」という成分です。
金沢工業大学の研究では、このα-EGが皮膚の真皮層にある線維芽細胞に働きかけ、コラーゲン産生を促進することが示唆されています。
これにより、肌のハリや保湿機能の維持が期待できるのです。

__なるほど、古くからの知恵が科学的にも裏付けられているのですね。古川さん、廃棄される酒粕を美容に活用するという発想も画期的ですね。
古川さん:吾妻嶺酒造店では岩手農大学校と連携して循環型農業を実践しており、酒粕を牛の飼料にして、そのたい肥で米を作り、その米で日本酒をつくるという循環型農業にも挑戦しています。
私たちの化粧水は、その延長線上にあるアップサイクルプロダクトでもあるんです。
単に肌に良いだけでなく、環境にも配慮した製品作りを心がけています。
340年の歴史が育んだ特別な酒粕

__数ある酒蔵の中で、吾妻嶺酒造店の酒粕に注目された理由を教えてください。
古川さん:吾妻嶺酒造店は岩手県最古の酒蔵で、創業は江戸時代の1684年です。
じつに340年以上の歴史があります。
さらに、日本最大の杜氏(とうじ)集団である「南部杜氏」発祥の蔵としても知られています。
長い歴史の中で培われた伝統的な製法が、酒粕の品質の高さに繋がっているのです。
__具体的にはどのような特徴があるのでしょうか?
古川さん:最も大きな特徴は、手作業による丁寧な酒造りです。
添加物を一切使わず、自然の菌のみで発酵させているため、酒粕エキスも非常にピュアな状態で抽出できます。
また、岩手ではぐくまれた水、そして酒米を使用することで、美容成分が豊富に含まれた高品質な酒粕が生まれるのです。

__先生から見て、その製法のこだわりは化粧品成分としてどのような利点がありますか?
久野医師:添加物を使用せず、自然発酵にこだわっている点は非常に重要です。
これにより、アミノ酸や有機酸などの有用成分が、より自然に近い形で豊富に含まれることになります。
また、不純物が少ないため、敏感肌の方にとっても刺激となるリスクを低減できる可能性があります。
__商品名の「1684」にも、その歴史が込められているのですね。
古川さん:はい、ブランド名は酒蔵の創業年から取っています。
「肌を育て、嗜む」という日本酒文化にも通じる哲学を大切にしており、340年以上続くものづくりの精神を現代の美容の形で表現したいと考えました。
