辛くとも微笑む母性
——鈴木さんは本作のオファーを受けたときは、どんなお気持ちだったんですか?
鈴木 私は阪神が18年ぶりにリーグ優勝したときに、背番号24のユニフォームが球場に入ってくる映像を見ていたんです。お話しいただいたとき、”あぁ、あの選手の母親役のお話いただいたんだ”と、とても嬉しかったんです。
それまで横田選手のことをよく知らなかったけれど、阪神の選手たちが、彼のユニフォームを持って、一緒にリーグ優勝を祝いたいと思うくらい、みんなに愛されていた選手で、色々と調べていくうちに選手としてだけではなく、ひとりの青年として、本当に素晴らしい方だったんだなと感じました。そのお母さん役をやれるというのは嬉しいことでした。
——嬉しかったとのことですが、本編ではプロ野球選手を目指して頑張っている息子が脳腫瘍を患い、闘病生活を支える辛いシーンの方が長いですよね。
鈴木 母親のまなみさんが取材を受けているVTRを拝見したんですけれども、”辛いときでも、ずっと息子の慎太郎さんを誇らしく思いながらそばで支えていらしたんだと感じました。だから、とにかく辛いときに辛いと表現するのではなく、いつも微笑んでいるお母さんを演じたいと思いました。
——その取材VTRが役作りに活かされたんですね。
鈴木 脚本と原作の「奇跡のバックホーム」、「栄光のバックホーム」の2冊を読みますと、まなみさんは、辛いこと、悲しいことも多かったと思いますが、”素敵な息子を授かった”と感謝の気持ちを常に持ってらしたと思います。
子どもの頃は野球に夢中だった息子だから、そんなに一緒には居られなかった。だから闘病中ではあるけれども、息子と一緒に居られる時間っていうのは、辛いだけじゃなくて、幸せとか喜びとか、そういったことも感じると思うんです。
私も鷹也くんがいつも現場で慎太郎さんとしていてくれたことに感謝しています。本当に鷹也くんの様子を見て、私は”彼の前では辛い顔をしたくない”と自然に思うことができました。いつも鷹也くんをしっかり見ていればいいと感じて、演技をする上では苦労はなかったです。
松谷 ありがたいお言葉です。
鈴木 本当ですよ。
彼を知れて本当によかった
——松谷さんは鈴木さんと共演されていかがでしたか?
松谷 京香さんとは、衣装合わせの時に初めてお会いさせていただいたんですけど、その瞬間から最後まで、もう本当に母と息子みたいで。今もそんな感じで接していただいているので、ずっとお母さんだと思ってお芝居をやらせてもらいました。
京香さんと2人だけのシーンも結構あったんですけど、初めからずっとお母さんと息子の関係で居させていただいたので、すんなり演じることができました。多分、”僕を緊張させないようにしてくれたんだな”と思っているので、感謝しかないです。本当に包み込むような優しさでした。
——本作を拝見して、横田慎太郎さんは目標を持つことで闘病生活を戦い抜いたと感じています。おふたりの今の目標を教えてください。
松谷 この作品自体もそうですが、慎太郎さんのことをひとりでも多くの方に知っていただきたいという気持ちが、とてもあります。公開日までに自分にできることをちゃんと最後までやりきるというのが今の目標です。
鈴木 私自身、横田慎太郎さんのことを知ることができて本当に良かったと思っています。
この映画に関わったおかげで、周りの方たちの慎太郎さんを想う気持ちの美しさも知ることもできました。だから、とにかくひとりでも多くの方に横田慎太郎さんのことを知ってもらいたい。
この映画を観ていると”努力は裏切らない”と感じるんです。一生懸命に何かひとつのことに向き合っている人は、きっと何かを感じ取って、映画館から持って帰ってもらえると思うので、とにかくひとりでも多くの人に観てもらいたいですね。
だから、私たちふたりとも口下手なんだけど、一生懸命宣伝活動しているのよね?
松谷 はい、頑張ってはいるんですけどね‥‥(笑)。
鈴木 難しいけれど、がんばって宣伝していきたいですね(笑)。
取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 岡本英理
