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“夫婦あるある”を超えた「“人類あるある”!」アルコ&ピース×天野千尋監督、『佐藤さんと佐藤さん』のヒリヒリするリアルな共感を語り尽くす!

“夫婦あるある”を超えた「“人類あるある”!」アルコ&ピース×天野千尋監督、『佐藤さんと佐藤さん』のヒリヒリするリアルな共感を語り尽くす!

活発でダンス好きなアウトドア派・佐藤サチと、正義感が強くまじめなインドア派・佐藤タモツ。大学で出会った、同じ苗字だけど性格は正反対の2人が、司法試験、結婚、出産、育児、仕事、そして夫婦のすれ違いを経て歩んだ15年を描く映画『佐藤さんと佐藤さん』(11月28日公開)。結婚という幸せのかたちの裏側に潜む、誰もが共感せずにはいられないヒリヒリするような痛みやズレを、『ミセス・ノイズィ』(19)で鋭い人間観察眼を見せた天野千尋監督が、岸井ゆきのと宮沢氷魚をW主演に迎えて紡ぎ出す。今回、著書「今日も嫁を口説こうか」など“愛妻家”として知られるアルコ&ピースの平子祐希と、結婚5年目で夫婦で子育てに奮闘中だという酒井健太の2人に、本作を観て受けた衝撃と共鳴したポイント、さらに天野監督も交えて制作の背景まで、存分に語り合ってもらった。

■「プレパラートくらいの些細な差で起きる人と人との行き違い」(平子)

――まずは、映画をご覧になっての率直な感想からお願いします!

平子「『佐藤さんと佐藤さん』っていうタイトルと、このポスタービジュアルからして、日常系の映画なのかな?って思ったんですけど…全然違いましたね。『ただのジェットコースター映画じゃねえか!』っていうくらい、ものすごく起伏のある映画で」

酒井「いやぁ、本当に…!普段、ここまで“前情報ゼロ”で映画を観ることってあまりないんですけど、素直にスッと入ってきた。『こんなおもしろい映画があるんだ!』って」
苗字は同じだが性格は正反対の2人の、出会いから別れまでの15年間を紡ぎ出す『佐藤さんと佐藤さん』は11月28日(金)公開
苗字は同じだが性格は正反対の2人の、出会いから別れまでの15年間を紡ぎ出す『佐藤さんと佐藤さん』は11月28日(金)公開 / [c]2025「佐藤さんと佐藤さん」製作委員会


平子「登場人物全員に当事者性があって、誰しもにそこはかとなく問題があるんですよ。しかも、僕と宮沢氷魚さん演じるタモツに、『これでもか!』っていうくらい重なる部分が多くて。これ、モデル料を支払わずに勝手に使ってる可能性ありますよ!」

酒井「平子さんがモデルになっているかもしれない(笑)。あとで監督に訊いてみましょう」

――(笑)。

平子「映画自体、前半・中盤・後半で、起伏が何度もあって、観ている側の心を何度も激しく揺さぶるんですよ。でも、俯瞰で見ると、悪人が一人もいないっていうね」

酒井「そうですね。円満夫婦だと思ってる僕らですら、一歩でも道を踏み外したら、サチやタモツと同じ轍を踏みかねないですから」

平子「よくある“ボタンの掛け違い”っていう表現よりももっとずっと薄い、プレパラートくらいの些細な差で起きる人と人との行き違い。もう“人類あるある”ですよ」

酒井「まさに! “人類あるある”だわ。国籍問わず誰もが共感できるんじゃないかな」

平子「ダイナマイトこそ出てこないものの、いろんな種類の色と形と音をした炸裂が随所にちりばめられていて…。人間対人間の難しさと、だからこそ、そこに同居する、愛しさと切なさと心強さと…がこの作品には詰まってて。『おいおい。そんなこと言いなさんなって…』ってツッコみながらも、観ているうちに、『あ、ヤバ…ッ! 俺もやってたわ』って、いたたまれなくなりすぎて、途中で席を立つ人すら出てくるんじゃないかと」
育児をしながらの試験勉強に励むタモツと、一家の大黒柱として仕事に邁進するサチの間に、小さなすれ違いが生じていく…
育児をしながらの試験勉強に励むタモツと、一家の大黒柱として仕事に邁進するサチの間に、小さなすれ違いが生じていく… / [c]2025「佐藤さんと佐藤さん」製作委員会


■「ものすごく繊細なバランスの上に成り立ってる作品のような気がする」(酒井)

酒井「そうね。登場人物の誰かしらに皆さん当てはまると思いますよ」

平子「もうね、全人類にお勧めしたい。結婚生活の予習もできるし、復習もできるし。現在進行形の人も、もちろんそうだし。振り返る人もいるだろうし。観た人みんな、体内の架空の臓器がギュ~ッてなってほしいわ。でもさ、あのリアルな空気感ってさ、粒子単位のバイブスがちゃんと噛み合わない限り作れない気がするんだよね。それこそ、監督が“1”言ったら、“10”吸収できるスタッフやキャストに囲まれてないと…」

酒井「確かにものすごく繊細なバランスの上に成り立ってる作品のような気がしますね。キャスティングも最高だったしね。サチ役の岸井ゆきのさんも、タモツ役の宮沢さんも、2人とも本当にうまかった!」

平子「特に映画冒頭に出てくる自転車置き場のシーンね。友だち同士の何気ないやりとりが、後々の展開に効いてくるんですよ。普通、あんなふうに自然にできないから!」

酒井「そうそう、あのシーン!演出と俳優の自由度のバランスが絶妙なんだよね。ではここからは天野監督に加わっていただいて。さらに詳しく伺っていきましょう」
大学のサークル「珈琲研究会」で知り合った、サチとタモツ
大学のサークル「珈琲研究会」で知り合った、サチとタモツ / [c]2025「佐藤さんと佐藤さん」製作委員会


■「子育てが始まった時の、めちゃくちゃ大変だった経験から生まれた」(天野)

平子「監督、この映画って、淡々とした日常を描いてるように見えますけど、実際は、ものすごく細かく計算されてるんですか?それとも自然にできたものですか?」

天野「あれは、結果として出来上がったものですね。『日常におけるなんでもないことを描きたい』という想いから生まれました。だからこそ、作っている側としては正直不安もあったので、ジェットコースターみたいに楽しんでいただけて、とてもうれしいです。ところどころお2人の感想の表現が盛りすぎな気もしますが…(笑)」

平子「結婚や夫婦関係を題材にされた理由は?」

天野「やっぱり、自分自身の体験から発想することが多いんです。10年前ぐらいに結婚して、子育てが始まった時の、めちゃくちゃ大変だった経験から生まれています」
息子のフクが誕生し、幸せに包まれるサチとタモツ
息子のフクが誕生し、幸せに包まれるサチとタモツ / [c]2025「佐藤さんと佐藤さん」製作委員会


酒井「ちなみに、タモツは平子さんがモデルではないんですか…?」

天野「…(笑)」

平子「別にモデルでもいいですよ?パーセンテージ、いらないので」

酒井「…だそうなので(笑)。この際、イエスかノーかではっきりお答えいただいて」

天野「平子さんがモデル…というわけではないですね(笑)。実際、世の中にもこういう人は意外といるだろうな、という要素をなるべくたくさん入れたかっただけなので」

平子「…ってことにしときましょう」

酒井「たしかに。世の中にタモツと似ている人は平子さん以外にもたくさんいますよ」

平子「それにしても似てましたよね。タモツの骨格もなんとなく僕に近かったし…」

酒井「え、あんなにシュッとしてる宮沢さんと!?」

天野「たしかに、髪型はちょっと近いかもしれないですね(笑)」

平子「そうですよね。身長もほぼ一緒!」

酒井「メガネも似てる…かな?」

アルコ&ピースの平子とタモツの共通点のひとつとして挙げられたのは、故郷が福島であること
アルコ&ピースの平子とタモツの共通点のひとつとして挙げられたのは、故郷が福島であること / [c]2025「佐藤さんと佐藤さん」製作委員会

平子「いやぁ。実際に僕もタモツと同じく東北の福島出身で。まさしく33、4歳まで芸人としての下積み期間があって。その間に結婚して、子どもが生まれ、奥さんだけが働いていて…みたいな時期もありましたから。そのころの後ろめたい気持ちとか、それこそ親族が集った時の独特の空気とか、めちゃくちゃ共感する部分がありました」

天野「そうだったんですね。平子さんが結婚を決められたきっかけは?」

平子「僕の場合は奥さんがすごく結婚したがってくれたんです。僕はお金もないし、責任も持てないから、『ダメだ、ダメだ』と言ってたんですが、奥さんが1年半も『結婚したい』と根気強く言い続けてくれたので、そこまで言ってもらえるなら…と。もちろん両親には大反対されましたけど。だからこそ、タモツの故郷が東北だっていうのもめちゃくちゃリアルで。地方には『男が仕事をして責任を持つ』といった結婚観がいまだに根強いですから。まだ司法試験に受かってもない状況にあるタモツが結婚に踏み切れない葛藤が、言葉で説明しなくても自然と伝わるんですよね」

天野「そうなんです。タモツ自身その価値観の狭間で苦しんでいるところもあって…。最初、クールなビジュアルの宮沢さんに情けない役をやってもらったらギャップがあっておもしろいんじゃないかと思ってオファーしたんですけど、タモツに宮沢さんご本人の誠実さがにじみ出て、まじめなんだけど空回ってしまう応援したくなるキャラクターになりました」
活発なアウトドア派のサチを岸井ゆきの、正義感が強くまじめでインドア派のタモツを宮沢氷魚が演じる
活発なアウトドア派のサチを岸井ゆきの、正義感が強くまじめでインドア派のタモツを宮沢氷魚が演じる / [c]2025「佐藤さんと佐藤さん」製作委員会


■「語尾とか接続詞には、マジで気をつけないと!一番間違いやすいんだ。僕みたいなヤツが(笑)」(酒井)

平子「あのビジュアルで男のどうしようもなく情けない部分を滲み出せるなんてね」

酒井「それこそ、俳優さんの力と監督の感性のすべてが合致してできた映画だと思うんですが、あれはかなり細かく演出されたんですか?」

天野「撮影に入る前に、1週間ほどかけてリハーサルをし、岸井さんと宮沢さんとかなり細かい部分まで動きを確認したので、きっとその成果も出ているんじゃないかと。岸井さんって生で観ると圧倒されるぐらい芝居の密度が濃くて、すごいんですよ。『サチってこういう人なんだ!』って、私が納得して驚かされたくらい。あとは、私自身の経験としても、サチとタモツの両方の気持ちがわかるというか。出産直後はワンオペで子育てしてたこともあれば、いざ撮影が始まると夫に子育てを全部任せて家を長く空けることもあって…。家の中で待ってる人の気持ち、外で働く人の気持ち、その両方を理解していたのも大きかったかもしれません。サチとタモツに限らず、現実でも人の気持ちは一枚岩ではないじゃないですか。なんかズレてるな…と感じても、頑張ればまだどうにかやれるんじゃないかと思って努力する。だけど、やっぱりうまくいかなくて…」
愛妻家であるアルコ&ピース、『佐藤さんと佐藤さん』を観て、「一歩でも道を踏み外したら、サチやタモツと同じ轍を踏みかねない」と共感の嵐!
愛妻家であるアルコ&ピース、『佐藤さんと佐藤さん』を観て、「一歩でも道を踏み外したら、サチやタモツと同じ轍を踏みかねない」と共感の嵐! / 撮影/Jumpei Yamada(ブライトイデア)


酒井「監督のご家庭はいまも円満ですか…?」

天野「うちの夫婦は割と溜め込む前に吐き出すタイプで。『なんでこんなバカみたいな喧嘩しなきゃいけないの?』とは思うんですが、小出しにすることでお互いの気持ちをぶつけ合えてるという意味では、日々の小競り合いがデトックスにはなってる気はしますね」

平子「うちも多少の小競り合いはありますけどね。ただ、それは別に悪い意味での小競り合いじゃないというか。あくまで善に向かおうとしてる2人の小競り合いで」

酒井「その時間って大事ですよね。それだって、たった1度でも角度がズレて変わると、とてつもない方向に行っちゃいますけどね。それこそ、劇中の2人のケンカのきっかけになる、『トイレットペーパーないよ』みたいに、語尾がちょっと違っただけで。そういえばうちの奥さん、ハッピーな時のサチに似てるんだよな。僕になにかいいことあった時なんかに、一緒に喜んでくれるところとか。だからこそ、いつかキレたらうちの奥さんもあんなふうになるのかなってちょっと怖くなったりして…。語尾とか接続詞には、マジで気をつけないと!一番間違いやすいんだ。僕みたいなヤツが(笑)」

■「大事なのは『ありがとう』と『ごめんなさい』の魔法の言葉と肩が触れ合う程のスキンシップ」(平子)

——お2人が夫婦円満でいるために、日頃から意識していることはありますか?

平子「この映画に出てくる、アメリカ人の妻を持つサチの会社の先輩じゃないですが、僕も常日ごろから、ちゃんと言葉にして行動に移すようにしています。大事なのは『ありがとう』と『ごめんなさい』。この2つの魔法の言葉と肩が触れ合う程のスキンシップがあるだけで、どの夫婦も本当は死ぬまで上手く渡り合っていけるはずなんです。映画の中でも小さな『ありがとう』がちょっとずつ消えていく瞬間があって、復活の兆しのあとに、ダムの崩壊につながっていく…。その1mmの落石が一番怖いんですよね」

酒井「僕もめちゃくちゃ『ありがとう』は言いますし、家事も言われる前に率先してやるように心掛けています。うちは子どもがまだ3歳と1歳で小さいので、仕事に行く前に僕が掃除をしたり、洗濯ものをたたんだりしないと回らない。言葉にせずとも自然と分担される感じですね」
「ありがとう」「ごめんね」が次第に2人の間で減っていく…
「ありがとう」「ごめんね」が次第に2人の間で減っていく… / [c]2025「佐藤さんと佐藤さん」製作委員会


天野「それでうまくいっているということは、相手がなにをしてほしいかちゃんと察して、的を外していないということですよね? それができるなんてすばらしいです!」

酒井「もしかすると、自分だけがそう思っているだけかもしれないですけどね(笑)」

平子「そうだね。50年後、ベンガルさん演じる菅井さんみたいになっている可能性もあるしね。奥さんから『圧しかなかった』って言われる可能性が(笑)」
サチの顧客の一人、菅井は50年連れ添った妻から熟年離婚を言い渡されていた
サチの顧客の一人、菅井は50年連れ添った妻から熟年離婚を言い渡されていた / [c]2025「佐藤さんと佐藤さん」製作委員会


■「タモツがちゃんと腹を割って素直な気持ちを吐き出す場所があるだけで、あの夫婦は幸せになる」(酒井)

——お2人から、サチとタモツにアドバイスはありますか?

平子「うちの場合は特殊だからあまり参考にならないと思うんですが、赤ちゃん言葉で話すことが日課になってます。『ネンネする?』『ギュウギュウ』って自然に使う。それを聞かないと子どもたちも『あれ?ケンカしてるのかな』って思うくらい。付き合いたてのころに生まれた文化が、47歳になったいまでもまだ続いています。2人の間で赤ちゃん言葉が出ているうちは大丈夫という、バロメーターみたいなものですね」

酒井「僕はタモツの地元の友だち役の一人として映画に出演して、タモツの愚痴を聞きながら、『それはお前、奥さん怒るだろ!』って、タモツを諭してやりたいです。タモツがちゃんと腹を割って素直な気持ちを吐き出す場所があるだけで、あの夫婦は幸せになると思うから。佐々木希ちゃんが働いてる居酒屋の常連にもなれるしね(笑)」

天野「(笑)」

平子「僕もそれがいいです。カウンターで飲んでる時に、女将の佐々木希ちゃんがのれんをしまって、『これで今日は飲めるよ~』って希ちゃんが言ってきて、『俺はもう帰るぞ』って言いながらも飲んで酔っぱらって、希ちゃんから頭を肩にちょこんってされた時に、『酔っぱらってんだったら俺は嫌だからな』って言ってスッと肩を引く。酒井は佐々木希ちゃんから好かれてると勘違いしながら通い続ける常連役ね(笑)」
佐々木希が演じたのは、タモツの故郷にある飲み屋の女将
佐々木希が演じたのは、タモツの故郷にある飲み屋の女将 / [c]2025「佐藤さんと佐藤さん」製作委員会


——妄想も広がりますね(笑)。では最後に、お2人からこの映画の魅力を改めて。

平子「結婚している人も、これからする人も、我が身を振り返る材料になるはずです。若い人ほど『自分は大丈夫』と思っているものだけど、誰もがこの2人みたいになる可能性があるという、“通過儀礼映画”です。何事も知っておくことが大事!」

酒井「中高生が見たらどう思うんだろう…(笑)。R15+くらいでいいんじゃない?」

平子「確かに!『知りすぎ注意!』ってポスターに貼っておいたほうがいいかもね(笑)。本当に、日本中の夫婦・カップルを救う可能性があります。これを観てなにも思わない人は論外ですが、観れば後戻りできる最後のチャンスになるかもしれません」

アルコ&ピースの鋭くもユーモラスな感想と、天野千尋監督の情熱あふれる制作秘話。日常の地味な衝突や言葉にならない感情を、まるで静かな爆弾のように描き切った『佐藤さんと佐藤さん』。MOVIE WALKER PRESSのYouTubeチャンネルで連載中のアルコ&ピースの「酒と平和と映画談義」では、「『ジョーカー』を観たあとと同じくらい(⁉)誰かと語り合いたくなる、人生の教訓が詰まっている」と平子が語る本作を、さらに深堀りする動画を前後編で公開!こちらもお楽しみに。


取材・文/渡邊玲子
配信元: MOVIE WALKER PRESS

提供元

MOVIE WALKER PRESS

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