
彼らの活躍によってシリーズ全体の価値が年々高まっていることはいうまでもなく、また今後のホラー界、ジャンル映画界を担う逸材をいち早く見つけようとする世界中のホラーファンからの視線も熱い。そこで本稿では、映画批評を集積・集計する「ロッテン・トマト」を参考に、これまで製作された「V/H/S」シリーズ作品(スピンオフを含む)を評価の高い順にリストアップ。その魅力を深掘りしていきたい。
「ロッテン・トマト」とは、全米をはじめとした批評家のレビューをもとに、映画や海外ドラマ、テレビ番組などの評価を集積したサイト。批評家の作品レビューに込められた賛否を独自の方法で集計し、それを数値化(%)したスコアは、サイト名にもなっている“トマト”で表される。
好意的な批評が多い作品は「フレッシュ(新鮮)」なトマトに、逆に否定的な批評が多い作品は「ロッテン(腐った)」トマトとなり、ひと目で作品の評価を確認することができる。中立的な立場で運営されていることから、一般の映画ファンはもちろん業界関係者からも支持を集めており、近年では日本でも多くの映画宣伝に利用されるように。映画館に掲示されたポスターに堂々と輝くトマトのマークを見たことがある方も多いだろう。

それでは、「V/H/S」シリーズの“フレッシュ”10傑を挙げていこう。
■90%フレッシュ『V/H/S 94』(21)
■90%フレッシュ『V/H/S ビヨンド』(24)
■89%フレッシュ『V/H/S Halloween(25)
■75%フレッシュ『V/H/S 99』(22)
■75%フレッシュ『V/H/S 85』(23)
■70%フレッシュ『V/H/S ネクストレベル』(13)
■68%フレッシュ『サイレン』(16)
■59%ロッテン『Kids vs.Alien』(22)
■55%ロッテン『V/H/S シンドローム』(12)
■32%ロッテン『V/H/S ファイナル・インパクト』(14)
■「Shudder」で復活後のタイトルが軒並み高評価!
同スコアで並んだ作品は、レビュー数ならびに観客からのスコア(“ポップコーンメーター”)を参考に順序をつけさせてもらった。「V/H/S」シリーズの特徴といえるのは、複数の短編によって構成されたアンソロジーでありながら、“フレーム・ナラティブ”(=ひとつひとつの物語をつなぐ大きな枠となるストーリー)が置かれることによって、一本の筋道の通った作品になっていること。

元々はアメリカのホラーメディア「Bloody Disgusting」を運営するブラッド・ミスカとロクサーヌ・ベンジャミンが、コネクションのある若手クリエイターたちを集めて始めた実験的なプロジェクトだった。それがサンダンス映画祭で好評を博したことから急遽シリーズ化され、第3作『V/H/S ファイナル・インパクト』で一度完結。しばしのブランクを経てホラー映画配信サービス「Shudder」のオリジナル作品として復活を遂げることに。
そこからは「Shudder」の世界的なサービス拡大に貢献する看板タイトルとして、毎年コンスタントに新作が製作され、そのたびに圧倒的な視聴者数を記録。先述した気鋭作家の発掘はもちろんのこと、「ブラックフォン」シリーズのスコット・デリクソンや『ドクター・スリープ』(19)のマイク・フラナガンなど第一線で活躍するクリエイターも招集するなど、進化を続けている。

さて、そんなシリーズのなかでもっとも高い評価を獲得したのは、「Shudder」オリジナル作品として新たなスタートを切った第4作『V/H/S 94』の90%フレッシュ。カルト集団のアジトに踏み込んだ特殊部隊員たちが、そこで発見したVHSに収められた恐怖映像を目撃していくという枠組みで物語が進行し、5つの短編で構成。モンスター系からいわゆる“ヒトコワ”まで、1本の映画のなかであらゆるタイプのホラーを堪能できるのは、アンソロジーならでは。
参加監督には、後に『Mr.ノーバディ2』(公開中)の監督に抜擢されたティモ・ジャヤントや、NEON製作のゴシックホラー『Brides』が控えるクロエ・オクノなどがおり、やはり次世代監督の宝庫といえよう。また、同じく90%フレッシュを獲得した『V/H/S ビヨンド』では、さらに踏み込んでSFホラーへと発展していく。こちらもジャンル映画好きなら観逃せない一本となっている。

リストからもわかる通り、上位を独占しているのはいずれも「Shudder」オリジナルへ移行後の作品。初期の3作の評価は伸び悩んでおり、もっとも評価が低くなった第3作で打ち切りとなった理由も容易に察しがつくだろう。しかし「V/H/S」シリーズの連続性は、ストーリーやキャラクターではなく、あくまでもシステム的なもの。常に斬新なアイデアが求められるホラージャンルのために、ローコストで気鋭の作家たちに表現の場を提供する。その重要性を見出し、シリーズを復活させた「Shudder」の功績は非常に大きいといえるだろう。
リストに入っている『サイレン』は、『V/H/S シンドローム』のなかの一編『Amateur Night』を長編リメイクしたものであり、『Kids vs Aliens.』も『V/H/S ネクストレベル』の『Slumber Party Alien Abduction』の長編リメイク。参加監督の出世はもちろん、このようにシリーズを構成した短編が独立した長編としてホラー映画界を盛り上げていくことも増えていくかもしれない。数年後にはさらに価値が上がること間違いなしの「V/H/S」シリーズから、今後も目が離せない!
文/久保田 和馬
