高市早苗首相の台湾有事を巡る発言で、日中間の緊張が高まっている。中国の王毅外相は11月22日に訪問先のタジキスタンで「日本軍国主義の復活を断固阻止する」とコメント。毛寧報道官が同じ言葉をXにて日本語で投稿した。
中国の反日感情を煽り、日本にもメッセージを直接送ることで、強い意志を表明する狙いが浮かび上がる。その先にある最悪のシナリオは、日本製品の不買運動だ。
デフレ基調の中国で無印良品が人気に
株式市場は中国の不買運動を警戒している。
「無印良品」の良品計画は、高市首相の「存立危機事態」発言後の11月17日、株価が発言前と比べておよそ2割落ち込んだ。「ユニクロ」のファーストリテイリングも同日に、11月11日比で1割以上も下がった。
11月27日時点では、両社とも株価は回復基調にあるものの、良品計画は11月11日の水準まで戻り切っていない。
今年、良品計画は中国が成長ドライバーになっていた。2025年8月期の中国での営業収益は前期の約2割増となる1398億円だった。東アジア事業全体の6割以上、同社全体のおよそ2割を占めている。
2025年6-8月は営業収益が想定を86億円上振れる好調ぶりが特徴だったが、その要因のひとつが中国事業だった。
中国では杭州や重慶などの主要都市で大型店の出店やリニューアルに着手。1店舗あたりの売上高の改善を進めた。また、売上の2割はEC経由になっており、SNSを活用したマーケティング活動が奏功している。
中国は足元でデフレが進行しており、危惧されていた景気後退局面の「日本病」が迫っている。中国の消費者は中価格帯の商品を好むようになっており、無印商品の人気が高まっていたのだ。
高級家具を購入する余裕はないが、ホームセンターの安いものも積極的に使いたくない。デフレ下の日本では、そのような意識を持つ多くの若者が、無印良品の家具や日用品を買いそろえていた。中国も似た状況になっているわけだ。
そうした中で、中国での不買運動の機運が高まった。その影響が一時的なものであればいいが、中国には「メイソウ」(名創優品)という無印良品に酷似したブランドがある。こうした競合に客をとられることになれば、中期的に打撃を受けることになりかねない。
「処理水」を「汚染水」と呼んだ中国政府
いっぽう、ユニクロのファーストリテイリングは、中国事業の収益性を高めるための構造改革を進めている最中だった。
2025年8月期における中国大陸の売上収益は6502億円で、海外事業全体の3割以上を占めている。ただし、中国国内の景気低迷の影響を受けて減収減益だった。
そのため、利益率の改善を急ピッチで進めており、販管費率を改善。値引率も低下させるなど、その効果が出始めていた。2025年6-8月は11%もの増益になっている。
正にこれからというタイミングで、日中関係の緊張が高まったのだ。
日本製品の不買運動が懸念される中で、かつて中国の不買運動に苦しめられたのが「資生堂」だった。2023年に福島第一原発の処理水を海洋放出すると、中国のSNSで日本の化粧品の不買運動の呼びかけが活発化。結果的に資生堂は2023年12月期を2割の営業減益で着地している。期初におよそ2割の営業増益を予想していたにもかかわらずだ。
原子力に関する高い専門性を有する国際原子力機関(IAEA)が、福島原発の処理水は国際安全基準に合致しており、人体と環境への影響は無視できると報告書で結論づけていた。しかし、中国政府は処理水を「汚染水」と呼び、水産物の輸入を禁止した。中国国民の不安を煽るような言動を行なったのだ。
やがて中国国民の間で日本の化粧品には海水や海洋生物を使っているなどという、真偽不明のデマ情報が飛び交うようになり、冷静さを失った一部の人々が混乱に陥ったのだ。
中国はとにかくメンツを重んじる国だ。一度振り上げた拳はなかなか下ろせない。ただし、処理水に関しては韓国や台湾が中国になびかなかったこともあり、中国の反発はトーンダウンしていった。
しかし、今回の高市首相の発言は台湾に関するものであり、簡単に強硬な態度を崩すとは考えにくい。

