■“伝説”となったミセス史上最大規模のライブを体感できる『MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE ~FJORD~ ON SCREEN』
ライブフィルム『FJORD』は、7月26、27日に、神奈川県の山下ふ頭特設会場にて開催され、2日間で約10万人の観客を動員したミセス史上最大規模のライブ。2日目はWOWOWで生中継されたほか、計15のプラットフォームで生配信、全国の映画館325館でライブビューイング、さらにJOY SOUNDの「みるハコ」でカラオケビューイングが行われ、2日間トータルで約35万人以上を熱狂させた。そんな“伝説”となった圧巻のステージを余すことなく収録している。

これはIMAXで観る価値がある一作と胸を張って断言できる作品。ドローンを含む60台のカメラによる映像は非常に精細でリアル。メンバーのアップや多彩なアングル。ドローンの映像は鳥になって会場を俯瞰するようなスケール感。「全席、最前列。」という触れ込みの通り、思わず拍手して手を振ってしまいそうなほど。音響もダイナミックでハイクオリティだ。

圧倒的なのはバンドのフロントマンを務める大森元貴の歌唱力で、音源ではないかと疑うほど。特に「天国」の表現力は圧巻で、ライブの終盤にもかかわらず声を枯らすことなく、この難曲を高いクオリティでパフォーマンスできる超人ぶりには誰もが驚くはずだ。フロートでのステージ移動の様子、バックに映しだされた映像、花火、会場では見逃していたり見えなかったところまで、このライブのすべてが映しだされる。もちろんユーモアたっぷりのMCももれなく収録され、定番の“若井いじり”には思わず吹きだしてしまうはず。
■3人の並々ならぬ覚悟を映しだす『MGA MAGICAL 10 YEARS DOCUMENTARY FILM ~THE ORIGIN~』
一方、ドキュメンタリー『THE ORIGIN』は、メンバーの若井滉斗、藤澤涼架も見たことがないという、大森の楽曲制作の現場に初めてカメラが入った。2024年から企画がスタートし、約300日におよぶ映像記録。ライブ「FJORD」で、「この日のために作ってきた」と披露された新曲「Variety」がどのようにして生まれたのか、そこには大森のどんな思いが込められたのか、カメラがその一部始終をありありと捉えている。

この作品で大森の姿を観て、やはり「大森は怪物だ」と感じる。しかしその大森を怪物たらしめているのは、若井と藤澤の存在だろう。普通なら気が狂いそうなほどの過密スケジュールと作業量、そのなかでポップスを追求しながら正気を保ち続けていられるのは、若井と藤澤という心を許せる2人がいつも側にいてくれるからに違いない。

大森の気持ちに応えるべく、2人が苦悩し葛藤する姿もカメラは捉えている。大森もそんな2人を守るためなら、どんな困難も厭わない。映像から浮かび上がってくるのは、3人それぞれが胸に抱く並々ならぬ覚悟だ。
ライブフィルム『FJORD』がミセスの表舞台を描いたものだとしたら、ドキュメンタリー『THE ORIGIN』はその裏側を描いた作品。どちらを先に観るかで、見え方が変わってきそうな2作品。観る順番さえもミセスのエンタテインメントとして楽しむことができる。
■『FJORD』→『THE ORIGIN』:「完成形」の熱狂を浴び、その裏にある物語を知る

『FJORD』が、ミセスのライブ初体験となる人も多いだろう。そんな人はきっと、本作を観て一瞬で彼らの虜になってしまうはず。サービス精神たっぷりのトーク、ノルウェー語で「入り江」を意味する“フィヨルド”を模したセットには滝が流れ、水も噴きだす。バブルやファイヤーボールなど演出も実に多彩だ。セットリストも「コロンブス」、「breakfast」、「ダンスホール」、「ライラック」といったヒット曲が満載のうえ、10周年になぞらえてデビュー当時の懐かしいナンバーも披露されるなど、新旧のファン誰もが楽しめる内容。そんなライブの中盤に予告なく披露されたのが、この日のために書き下ろされた新曲「Variety」で、ミセスらしいポップさと10年の思いが詰め込まれている。

この曲が生まれるまでには、どんな物語があったのか。ドキュメンタリー『THE ORIGIN』では、制作スタジオでコンピュータに向き合う大森が、打ち込んだり楽器を弾いたりする様子など、実に貴重な制作風景が収録されている。また「FJORD」の裏側の様子も収録されており、彼らの姿を見ると、もう一度『FJORD』を観たくなってしまうだろう。

■『THE ORIGIN』→『FJORD』:制作のリアル、葛藤を知り、想いが爆発する瞬間を目撃する

前述の順番が、ライブフィルム『FJORD』で虜にして『THE ORIGIN』でさらにその沼へと引きずり込むものだとすれば、『THE ORIGIN』→『FJORD』という順番は、犯人を先に知ったうえで、そのトリックの妙を楽しむ推理小説のようなものかもしれない。

『THE ORIGIN』は、インタビューの内容もこれまでの活動を振り返ったものや、お互いについて、なんのために音楽をやっているかなど多岐にわたる。イタリアでジェラートを食べているシーンも必見だ。

またリハーサル映像では、大森が若井や藤澤を追い込みながらクオリティを高めていく様子が収録されている。ライブフィルム『FJORD』ではリハーサルでやっていた曲の演奏シーンもあり、思わず「よく頑張ったね!」と拍手を送りたくなる。いかにして「Variety」が生まれたのか、「FJORD」というライブが完成されるまでにはどんな苦労と研鑽があったか。それを知ったうえで、ライブフィルム『FJORD』を観れば、その感動もひとしおだろう。

ステージでスターとして輝く完成されたミセスの姿を捉えた『FJORD』と、ミセスの“人間”という部分に踏み込んだ『THE ORIGIN』。表と裏という対照的な2つを観ることで、「Mrs. GREEN APPLE」という存在を多角的に理解できるはず。Mrs. GREEN APPLEとは何者なのか。「フェーズ2」で彼らがやりたかったこととは。「フェーズ2」の集大成として楽しみ、来年の「フェーズ3」に期待が高まる2作品である。
文/榑林史章
