先日のF1アゼルバイジャンGPで3位に入ったカルロス・サインツJr.。彼にとってはウイリアムズ移籍後初の表彰台であり、ここ数戦の苦戦を吹き飛ばす活躍でポイントランキングも12番手に上がった。
そんなサインツJr.をパドックで人知れず支えているのが、元F1ドライバーのロベルト・メリだ。
サインツJr.とメリは共にスペイン人ドライバーであり、年齢はメリの方が3つ上ではあるが、ふたりは共に2015年にF1デビュー。順調にF1キャリアを歩んでいたサインツJr.と対照的に、弱小マノー・マルシャからの参戦となったメリは1年でF1から離れることになったものの、レースキャリア自体は継続しており、現在は日本のスーパーGTのGT300クラスを主戦場としている。
今年5月のスーパーGT第2戦富士では、VELOREX(Team LeMans)のフェラーリを片山義章と駆り、27番手スタートから勝利するという劇的な形で初優勝を遂げたメリ。日本でのレース活動の傍ら、F1パドックでもサインツJr.の側にいる姿が度々見かけられるが、彼はどんな役割を担っているのだろうか? スーパーGT第6戦SUGOの現場で尋ねた。
「彼とは友人で一緒にトレーニングもしているし、ドライビングスタイルの面でも改善できるようサポートしているんだ」
メリはそう語る。
「僕はデータやレポートを見て、カルロスがどこでタイムを失っているのかを考えて、そこを改善できるかどうかやってみたりしている。特に今年は新しいクルマ(チーム)になったり、彼にとっても新しいもの尽くしだから、出来るだけ助けになればと思っている」
「そういったことを2023年からちょっとずつやり始めて、2024年から本格的に始めて今が2年目だ。今年はあまり運が良くないから、来年は良い年になると良いね」
このインタビューをしたのは、サインツJr.がアゼルバイジャンGPの予選でフロントロウを獲得する前。それまでサインツJr.はチームメイトであるアレクサンダー・アルボンに対して後れをとるレースが続いていて、ポイントはアルボンの4分の1も稼げていなかった。
ただメリは、先のコメントにもある通りサインツJr.には不運の要素が大きかったため、苦戦しているという見方はフェアではないと主張。実際、アルボンとサインツJr.の平均予選順位はほとんど差がなく、メリも「ここ数戦はアルボンより前だったのにアクシデントがあったりしたからね」と話す。
今年がウイリアムズ移籍1年目のサインツJr.だが、彼にまつわるデータで最も興味深いのが、彼がチームを移籍すると、そのチームは成績を大きく向上させるという事実だ。
トロロッソ(現レーシングブルズ)からデビューしたサインツJr.は、2017年途中にルノー(現アルピーヌ)に加入。翌2018年まで所属したが、2018年のルノーは前年から獲得ポイントを倍増させランキングも6位から4位にジャンプアップした。
そして2019年にはマクラーレンに移籍すると、こちらも同じく獲得ポイントが倍増してランキング6位→4位に。2021年には、前年に歴史的低迷に見舞われたフェラーリへ移籍することになり心配されていたが、フェラーリはサインツJr.加入後にたちまち息を吹き返してトップチームの一角に返り咲いた。そして今季加入のウイリアムズは、前年の9位から大きく躍進して現在ランキング5番手だ。
移籍したチームがたちまち躍進する、不思議な力を持っているサインツJr.。当然、マシンの開発は加入する前の年から行なわれているわけで、彼が躍進に直接的に関与できる部分は限られている。とはいえメリは、サインツJr.が単に運の良い男だと片付けていいものではないと考えている。
「カルロスのおかげでもあると思う」
「彼はクルマを速くするためにはどうすればいいか、その方向性を知っている。これはカルロスの大きな強みであり、だからこそどのチームも成績を上げているんだ」
「彼は本当に才能があって、ハードワーカーでもある。フィードバックも良くて、マシンを良くするのが得意なんだ。これはチームにとっても良いことであり、彼の最大の強みだ」
東北でスーパーGTのレースを戦っていたメリは、サインツJr.の勇姿を現地で見届けることは叶わなかったが、友人がついに移籍先で好結果を残したことを喜んでいるに違いない。

