子どもにお金の関する教育をするのはなかなか大変だ。大人でも難しい物価や経済観念、社会の仕組みについて子どもにわかりやすく教えるにはどうしたらいいだろうか。実は身近なあの“食べ物”の値段が参考になるというのだが……。
経営者で投資家、そして二児の母でもある池澤摩耶氏の書籍『元外資系投資銀行トレーダーママが伝授 子どもを人生ゲームの勝者にする最強マネー教育』より一部を抜粋・再構成し、新しい“家庭内マネーリテラシー”をお届けする。
「ビッグマック」を通して見える世界のお金の立ち位置
じゅう〜っと焼けるパティの音、ふわっと香るごまバンズ。どこに行っても同じ安心感。世界約120の国と地域に、4万店以上を展開するマクドナルド。その看板メニュー「ビッグマック」は、半世紀以上にわたって、世界中で愛され続けているロングセラーです。
今、日本でビッグマックを買うと約450円。でもスイスでは、同じビッグマックがなんと1200円以上もします。
「えっ、同じハンバーガーなのに? どうして?」
その疑問が子どもから出たら、もう“経済的な視点”を持ち始めている証拠。
同じ商品、つまり、ビッグマックが国ごとにいくらで売られているか。それを比べることで、各国のお金の価値や物価の違いが見えてくる。これが「ビッグマック指数」と呼ばれる、ちょっとユニークな経済のものさしです。イギリスの経済誌『エコノミスト』が1986年に考案し、今でも毎年発表されています。
アメリカのビッグマックの価格を基準に、他の国の価格がそれより高ければ「その国の通貨は割高(購買力が強め)」、安ければ「割安(購買力が弱め)」と見る考え方です。これは「為替レートだけでなく、物価水準の違いも反映されている」点がポイント。
たったひとつのハンバーガーを通して、通貨、物価の国際比較ができる。なんだか難しそうに見える経済の世界が、急にぐっと近づいてくるでしょう。
「次の旅行で、ビッグマックが何円か見てみようよ」
きっとそんな親子の会話から、世界のお金への好奇心は始まります。
ちなみに、この「ビッグマック指数」で基準となる、マクドナルド発祥の地・アメリカのビッグマックの価格は、2024年当時で1個あたり約5.79ドル。日本円にしておよそ894円(※当時の為替レート)でした。
でも、同じ年にフランスに行ったとき、パリのシャルル・ド・ゴール空港でマクドナルドに入ってビッグマックを注文したら、なんと7ユーロ超え! 日本円で1100円以上(※当時の為替レート)です。あれ、日本で食べたときは450円くらいだったのに? と、思わず親子で顔を見合わせました。
同じ商品でどうしてこんなに値段が違うの? その理由は、まさに「通貨の力」にあります。アメリカのビッグマック価格を基準に、それよりビッグマックが高ければ「その国のお金は強すぎ(=過大評価)」、安ければ「弱すぎ(=過小評価)」と見なされます。理想は、世界中どこで買っても同じ価格になることですが、実際は各国の通貨の価値にばらつきがあるため、そうはならないのです。
たとえば、2025年1月の為替レートは1ドル=約154円。でも、ビッグマックが日本とアメリカで同じ価値になるためには、1ドル=約83円であるべき、という試算があります。この差はかなり大きいですよね。
つまり、今の日本円は「世界の中でだいぶ弱くなっている」ということ。
おそらく、そんな話を教科書で見てもピンとこないけれど、旅先のマクドナルドで実際にお財布を開いたら、「え、これって高くない?」「円ってこんなに弱かったの!?」と、実感を持って学ぶことができます。
そう考えると、ビッグマックはただのハンバーガーじゃなくて、世界経済の“味見”ができる、おいしい教科書なのかもしれません。
円の価値が低い日本=海外旅行や不動産が高騰する
「お金の力(=通貨の価値)」が弱くなると、私たちの生活にも大きな影響があります。
たとえば、海外のモノやサービスがすごく高く感じられたり、海外旅行では前よりずっと多くのお金が必要になったりします。
1990年代半ば、日本では1ドル=約80円という「超円高」の時代がありました。円の価値がとても高かったので、海外旅行が大人気に。パリやハワイで、日本人観光客がブランド品や時計を「爆買い」していた光景を覚えている方もいるかもしれません。
でも、今はまったく逆の現象が起きています。
最近では、円の価値がとても低くなっている「円安」の状態。だからこそ、今度は世界中から観光客が日本にやってきて、「日本のほうがずっと安い!」と、ブランド品や家電を大量に買って帰るようになったのです。
円の価値が下がると、日本の物価やサービスは、世界の人たちにとって「割安」になります。つまり、日本全体が「セール会場」みたいな状態になるわけです。さらに最近では、円安を利用して、海外の投資家たちが日本の土地やビルを買いはじめています。とくに東京や大阪の都心では、そうした海外マネーの流入で不動産価格や家賃が急激に上がっています。
このように、「お金の力」が弱まると、海外の人たちから“安く買いたたかれる”ことが起きるようになります。旅行·モノ·不動産……。実は、円の価値が下がるだけで、私たちの身近な暮らしがこれほど大きく揺さぶられているのです。

