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高次脳機能障害の59歳男性、月1しか風呂に入れず家族から「臭い」と言われたひきこもり生活…それでも社会復帰できた“まさかのキッカケ”

高次脳機能障害の59歳男性、月1しか風呂に入れず家族から「臭い」と言われたひきこもり生活…それでも社会復帰できた“まさかのキッカケ”

大勢の人の前で歌う楽しさを取り戻す

年金の振り込みが始まった後、市役所に手続きに行くと、「ひきこもり家族会」のチラシが置いてあった。

「“ひきこもり”っていう文字が目に入って。ああ、今の僕は、ひきこもりだ。また社会とつながり直すには、何かしなくちゃ。行ってみようと」

チラシには当事者もOKだと書いてある。参加してみると他の当事者や支援者が話を聞いてくれて、「リカバリーカレッジ・ポリフォニー」(東京都東久留米市)への通所を勧めてくれた。

ポリフォニーが行なっているのは障害者サービスのひとつである生活訓練事業で、最長3年間利用できる。青木さんはそのプログラムを片っ端から受講した。

高次脳機能障害のせいで、1度に複数の人が話をしたり、速いテンポで会話をしていると、音は聞こえても意味が取れないため、受講が難しい講座もあった。だが、あるプログラムのおかげで歌う楽しさを取り戻すことができた。

「1年後の自分を想像して、その姿を文章に書くという課題があって、僕は『人前で歌っている自分』と書いたんですね。それを書いたときは夢だったのに、数か月後にみなさんの前で歌わせてもらったんです。

僕の歌を聴いてくださる方たちのお顔を見ながら歌うのが、うれしくて。笑ってくださったり、涙を流してくださったり、反応してくださるのが、すごく、うれしかったですね」

手術直後も、歌に助けられた。失語症で「言葉がうまく出てこない」と感じたとき、幼いころから慣れ親しんだ童謡や唱歌を歌ってみたら、「あれ、スッと言葉が出る」と気づいたのだ。いいリハビリになると思い、どんどん歌の種類を増やしていったら、会話の滑らかさも少しずつ戻ってきたそうだ。

だが、それだけ歌が好きだったのに、ひきこもっている間は歌う気にもなれなかった。家族と話もしなかったから、声も出なくなってしまったという。

歌う楽しさを取り戻した後は、さまざまな場所で歌っている。母校の定期演奏会で現役の高校生やOBと一緒に歌ったり、失語症の当事者向けのカラオケコンテストに出場したり。ひきこもりのイベントでは体験談を話して独唱をした。

「ありがとう、ごめんね」が口癖に

青木さんが再び動けるようになった裏には、家族の支えもある。

実は、1度目のオーバードーズをして退院した後、青木さんは当時、高校生だった息子の部屋で寝るようになった。それまで妻は娘と同室を使い、青木さんは1人で寝ていたのだが、夫を1人にすると危ないと思った妻が息子を説得。

それ以来、ずっと息子と一緒に寝起きしているのだという。青木さんがひきこもっていた間も、「部屋を出て行って」とは言われなかったそうだ。

驚いて、「もともとお父さん子だったのか」と聞くと、むしろ逆だったと打ち明ける。

「子どもたちがちっちゃいころは、ずいぶんと僕、声を荒げて怒鳴ったり、手を上げたりもしてた。その後も、2回オーバードーズをしているんで、そこで家族を捨てるようなことをしているわけですよ。家内にも、ほんとに、いつ離婚されてもおかしくなかった。

それなのに、どうしようもない僕を見捨てずに、みんなずっと一緒にいてくれて……。本当に頭が上がらないです」

青木さんが心がけているのは、感謝と謝罪の言葉を口に出すことだ。

「子どもたちと話すときも、何か頼むときは『悪いけど何々してくれる? ありがとう、ごめんね』と、ずっと言っています。家内と話すときも、『うんうん、ありがとう、ごめんね』って。もう口癖になっていますね(笑)」

今も体調の波はあるが、以前のようにドーンと崩れることはない。近く家族みんなで旅行に行く予定があり、楽しみにしていると穏やかに笑う。

〈前編はこちらから『「脳が3分の1潰れてしまった」ひきこもり男性…どん底の59歳が明かす“本当の原因”』

取材・文/萩原絹代

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