宇宙の始まりを描き直す挑戦

本研究は、宇宙誕生のシナリオを大きく見直す可能性を示しています。
インフラトンという未知の存在に頼らず、私たちがすでに知っている重力と量子の原理だけで、宇宙の構造誕生を説明できるかもしれないのです。
宇宙の起源を解き明かすことは、決して机上の空論ではなく、私たちが何者でどこから来たのかという根源的な問いにもつながります。
もちろん、提案されたのはあくまで理論モデルにすぎません。
計算上は整合していても、実際の宇宙が同じように振る舞った証拠はまだ得られていません。
たとえば、このモデルが予測する原初重力波の強度は非常に低く、最先端の観測でも検出できるかどうか際どい値だと考えられています(検証は難しいとされています)。
さらに、初期宇宙には他にもさまざまな物質や相互作用が存在していた可能性があるため、この単純化されたモデルがどこまで現実に適用できるかは、今後の検証が必要です。
それでも、インフラトンという仮定に頼らずに宇宙構造の起源を説明しようとする本研究のアプローチは非常に有望です。
提示された仮説はシンプルであるゆえに反証可能性が高く、今後の観測や理論解析による検証が進むでしょう。
研究チームも、さらなる詳細な解析によってこのシナリオの妥当性をテストしていく計画です。
もしかしたら宇宙の誕生には特別な火種など不要で、最初から存在していた時空の“さざ波”こそが今の宇宙の姿の原形だったのかもしれません。
参考文献
Forget the Big Bang: Gravitational waves may have really created the Universe
https://www.sciencedaily.com/releases/2025/07/250730030404.htm
元論文
Inflation without an inflaton
https://doi.org/10.1103/vfny-pgc2
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

