2024年11月末に吉本興業とのマネジメント契約を終了した、お笑い芸人・エハラマサヒロ。独立したことで、仕事のスタイルや年収にどのような変化が起きたのか。1年が経った現在の本音を聞いた。(前後編の前編)
独立1年目を振り返って「デメリットはひとつもない」
──昨年11月30日の吉本興業退社から、もうすぐ1年が経ちます。仕事やプライベートで、この1年はどんな変化がありましたか?
エハラマサヒロ(以下、同) 仕事の面でいちばん大きいのは、やっぱり「確認ごと」がなくなったことですね。
事務所に所属していると、何をするにもまず会社に確認しないといけないじゃないですか。「これやっていいですか?」って、お伺いを立てる必要がある。
たとえば、たまたまロケに遭遇して映像に出た場合にも「これは放送していいですか?」と会社に確認しなくちゃいけないわけですよ。企画を思いついてやろうと思っても会社に確認してから待つ時間がけっこう長い。待っている間に熱量が冷めてしまったり、
──コンプライアンスが重視される時代なので、会社としても慎重にならざるを得ないですよね。
そうなんですよね。ただ、なかなか返事がない場合も多くて、中には「黙ってやっちゃえ」という人もいると思うんですけど、僕はそれがモヤモヤするタイプなので筋は通しておきたかった。
でも今は、すべて自分の判断で動けます。だからスピードも出るし、ノンストレスで決められる。この感覚は僕の性格だけでなく、今の時代にもすごく合っているなと思います。
──1年前、吉本退所直後のインタビューでも、「時間がかかることで熱量が冷めてしまうのがつらい」とおっしゃっていましたよね。
去年お話ししたときに言っていた「こうなったらいいな」というイメージと、実際にフリーになってからの現実が、全然ズレてないんですよ。「思ってたんと違うな……」と感じることが、本当にひとつもない。
──生活スタイルはいかがですか?
スタイルそのものは変わってませんが、この1年は本当に忙しかったですね。営業もしてないのにスケジュールがずっと埋まっていて。家族との時間は減りましたが、代わりに「地方仕事の前日はオフにして家族旅行を入れる」など、時間の“質”を上げる調整ができるようになりました。
──「会社にいたほうが楽だったな」と感じる瞬間はありますか?
これがね、ないんですよ。本当にひとつもなくて(笑)。「メリット100、デメリット0」。たぶん僕が独立に向いてたんでしょうね。
でも勘違いしてほしくないのが、吉本を悪く言うつもりはまったくないんです。一般的に見れば、吉本みたいな大きな会社に所属するメリットはやっぱりたくさんあるんですよ。
たとえば「信用」に関しては、吉本の偉大さを痛感しました。個人や小さな会社だと実績がないので、取引の際に前金での支払いを求められることも多いんですよ。
実際に「ザ・ミュージカルマン2025」では2000万円以上を最初に振り込みました。それに会場を押さえたくても、吉本ならスッと通るところが、個人だと「ちょっと……」と言われたりします。
気になる独立1年目の収支は……
──エハラさんも「独立最高!」と手放しで言っているのではなく、「向き不向きがある」ともおっしゃっていますよね。
ほんまそれなんですよ。僕は向いてましたが、「この人は絶対ムリやろ……」と思うタレントさんもたくさんいます。自分で動くタイプじゃない、人に任せる、お金の知識がない──そういう人が独立するとトラブルも多くて、持ち逃げや詐欺に遭ったという話もよく耳にします。だから僕も細心の注意を払っていますね。
──この1年間スケジュールがびっしり埋まったのは、自然と案件が増えたのでしょうか? それとも意図的に営業などして増やした?
独立1年目ということで、新しいお付き合いも増えるはずだし、とりあえず「来た仕事は一度全部受けてみよう」と思っていました。なのでスケジュールが空いている場合は、基本全部受けてましたね。もちろん、中にはお断りさせていただいた案件もありますが。
──仕事を「受ける/受けない」の基準はどこにあるのでしょう。
基本的には「楽しそうなもの」は受けていて、「お金を稼ぐためだけの仕事」は受けないようにしています。たとえば、この先自分が使わないであろう商品のPRとかはお断りしていて。あと「やりがいがあるか」「スキルアップにつながるか」など、自分を高められるかどうかも基準にしていますね。
──そうした案件をこなしながら、舞台にも出て、YouTubeも開設して音楽制作もしていますよね。
僕としては「自分が楽しいと思えるものだけ」を毎日並べているような感覚です。
本当は職人的に「お笑い」だけを追求する芸人が一番かっこいいと思ってるんですけど、僕はそうじゃない。ほんまに飽き性なんですよ(笑)。「今日はダンス、明日は歌、明後日は芝居、その次の日はお笑い」みたいに続けていきたい人間なんです。その点も、フリーになってからは調整しやすくなりましたね。
──とすると、年収の面にも結構変化があったのでは?
そうですね。単純に働く量がめちゃくちゃ増えたので、倍増はしていると思います。もっとかな? 収入額はあまり気にしていないタイプなので、ざっくりですが(笑)。ただ、出ていくお金も増えていますね。
たとえば人を雇っているので、人件費として月100万円くらいは使ってますし、設備投資もしています。
PCを新しくしたり、撮影機材を買い替えたり、録音機材のグレードを上げたり……。ちゃんと投資することで、今やっている「楽しいこと」のクオリティを全部2~3段階上げていきたいんです。

