改めて振り返る吉本興業のすごさ
──支出の管理など、お金のマネジメントもすべてご自身でされてるんですか?
基本的には全部自分でやってますね。
家族ができた27歳くらいのときに、「ちゃんとお金の稼ぎ方を知って、地盤を固めよう」と思ったんです。芸人って本当に水物で、多くの人がパッと消えていく。その現実を目の前で見たときに、「この仕事をどんなバランスで稼いでいくのが正解なのか」「この金額はどういう流れで自分に入ってくるのか」みたいな部分を、めちゃくちゃ調べました。
あと「吉本の強みはここ」「他事務所のメリットはこう」といったことも分析しながら、お金の流れを把握できるようにしましたね。
──吉本興業の強みは、どこにあると思いますか?
“看板が大きい”のはもちろんですが、一番すごいのは「劇場で芸人を育てる仕組み」だと僕は思います。
劇場って、基本赤字なんですよ。でも吉本はそれをずっと続けていて、毎日芸人を出す場を用意してくれている。しかも、ちゃんとギャラも出るわけです。一般的には「利益が出たときだけギャラを分配する」というのが興行ですよね。
でも吉本は、お客さんがたとえ1人でも絶対ギャラが出る。だから、劇場だけで食えている芸人もいます。それくらい“芸人が育つ環境”に投資しているんです。
──劇場に立ちたいタイプの芸人さんにとっては、最高の環境ですね。
本当にそうです。僕が2009~2010年とR-1グランプリの決勝に行けたのも、あの時期に劇場にめちゃくちゃ立たせてもらったからです。
「R-1まであと1週間」というタイミングで社員さんにお願いしたら、「ここ入れます」「ここも入れます」と、5本も10本もライブを入れてくれました。
ミュージカルは大赤字も「稼ぎを全部突っ込んでいい」
──今年9月に開催された「ザ・ミュージカルマン2025」も、事務所に所属していたときよりも深く携わっていた印象があります。運営面を主導したのは初めてですか?
そうですね。会場を押さえるところは運営会社さんに手伝っていただきましたが、資金調達やグッズの制作、舞台の内容、イベントPRなど、やりたいことの部分は全部自分でやりました。
──収益としてはどうでしたか?
大赤字です。大赤字。総制作費が2700万円くらいかかっていて、たぶん1600万円くらい赤字じゃないかな。
──それでも続けたい、と思える理由は何なんでしょう。
やっぱり「自分にしかできないもの」を作りたかったんですよ。僕にしかできないエンタメを作りたかった。今回やってみて、「来年1年働いて、その稼ぎを全部『ザ・ミュージカルマン』に突っ込んでもいいな」と改めて思いましたね。
ネタでは、僕は唯一無二になれなかった。誰かがやっていそうなネタばかりで、自分としても独自性を感じられない部分があったんです。
でも、ダンス、歌、ものまね、ヒューマンビートボックス、ミュージカル……それぞれの一流の人たちと僕がコラボする舞台なら、「これはエハラマサヒロにしかできない」と思えたんです。
──観に来られた方の反応で印象に残った言葉ってありますか?
あ、倖田來未さんが観に来てくれてたんですけど、舞台の進行の邪魔になるぐらい大きい声で笑ってました(笑)。
あと嬉しかったのは……僕、25歳のときに『おはスタ』(テレビ東京系)のレギュラーが初めての地上波レギュラーだったんですよ。そのとき何の経験もなくて、毎回ベテランの演出の方に怒られてたんです。
でもずっと応援してくれていて、今回18年ぶりにお声がけしたら、「チケットは自分で買う。招待されたら、ちゃんと感想を言えない。席だけ押さえてくれたらいい」と言って見に来てくれたんですね。それで終わった後に「よくやったなあ」と褒めてもらえた。これは本当に嬉しかったですね。
#2へつづく
#2「エハラサマサヒロが手放しで絶賛するモノマネ芸人とモノマネ界に現れた意外なスター候補」
取材・文/毛内達大 撮影/平川友絵

