
神出鬼没のライス、分厚い選手層、指揮官の絶妙な手綱さばき。公式戦16勝2分け1敗。アーセナルは順調に歩みを進めている【現地発】
「現時点で、バイエルン・ミュンヘンは欧州最高のチームだ」
試合前にこう語っていたのは、アーセナルのミケル・アルテタ監督である。それでもアーセナルはチャンピオンズリーグのリーグフェーズ第5節でバイエルンを3-1で撃破し、今季CLで唯一となる開幕5連勝を飾って首位に立った。
アーセナルがCLで開幕5連勝を記録したのは、今から20年前の2005–06シーズン以来で、このシーズンはクラブ史上唯一の決勝進出を果たしている。今季の公式戦全体に枠を広げても成績は16勝2分け1敗と驚異的で、チームは順調に歩みを進めている。
アーセナルOBで元イングランド代表DFのマシュー・アップソン氏は、今季のアーセナルを「抜群に安定感が高い」と絶賛する。
「以前のアーセナルは、素晴らしい試合をしたと思えば、直後に急激に質が落ちる試合もあった。だが今はそれがまったくない。採点で言えば常に10点満点中7点以上のプレーを続けており、9点に届くこともある。安定したパフォーマンスによって結果を積み重ねている」
今回のバイエルン戦がアーセナルのペースで進んだことはスタッツが物語る。アーセナルのゴール期待値は「2.72」、対するバイエルンは「0.69」。枠内シュート数もアーセナルの8本に対し、バイエルンはわずか2本で、内容面でもアーセナルが大きく上回った。
ただしボール保持率ではバイエルンが60%を記録し、こちらはアーセナルを上回った。この点にこそアルテタ体制の強さがある。ボールを握られても高い圧力のプレスで跳ね返し、素早くショートカウンターにつなげる。現在のアーセナルは、従来のポゼッション主体というよりもカウンター色を強めている。
その中心にいるのが、4-2-3-1の“8番”として躍動するデクラン・ライスだ。UEFA公式のMOMに選ばれたのみならず、英BBC放送もライスをバイエルン戦のMOMに選出した。BBCの採点は「試合を観戦したファン」によって決まるが、2位ユリエン・ティンベルの8.50点を大きく上回り、ライスには9.26点という極めて高い評価が与えられた。
ライスのプレーは、まさに「神出鬼没」という表現がふさわしい。
好機と見れば推進力のあるドリブルで敵陣に迫り、ボールを落ち着かせたい場面では中盤の底まで下がってパスワークに加わる。バイエルン戦でも8番として巧みに試合をコントロールした。
さらに決定的な仕事もこなした。ライスが中盤でインターセプトし、エベレチ・エゼを経由してリッカルド・カラフィオーリがクロスを供給。最後はノニ・マドゥエケが押し込んだ後半の得点シーンは、今季のアーセナルの強さを象徴する形だった。
またライスはプレースキックでも幾度もチャンスを演出した。正確で鋭いキックで前半にウィリアン・サリバ、後半にはクリスティアン・モスケラに絶好機を届けており、今やヨーロッパ屈指のプレースキッカーと呼べる存在となっている。
それだけではない。リーダーシップも際立っていた。後半、自身のパスがカットされてカウンターを受けた場面で、ライスは素早く戻り、ハリー・ケインへのスライディングタックルでピンチを未然に防いだ。このプレー直後、ライスは両腕を大きく上げて観客と味方を鼓舞し、チームに覇気を注ぎ込んだ。こうした強靭なメンタルも現在のアーセナルに欠かせない。
英紙『デーリー・テレグラフ』は「現時点で、ライスより優れたMFが世界にいるだろうか? バルセロナのペドリが候補かもしれないが、ライスのパワーはない。ライスは今、モンスターへと変貌している」と絶賛した。
そのライスの背後で奮闘するマルティン・スビメンディの存在も忘れてはならない。スビメンディが中盤の底を安定させることで、ライスはボックス・トゥ・ボックス型として攻守に存在感を発揮できている。試合終盤、ライスが思い切り良く前線へ駆け上がり、バイエルン守備陣を突破したうえで放ったシュート性のクロスがノイアーに阻まれた場面は、スビメンディとの関係性が生む攻撃力を象徴している。
アーセナルの分厚い選手層も、今回の勝利に大きく貢献した。
マドゥエケとガブリエウ・マルチネッリが揃って得点し、試合終盤には故障明けの主将マーティン・ウーデゴーも復帰した。1-1の状況でブカヨ・サカを下げても、アーセナルはなお圧倒的な試合運びを見せた。
アップソン氏は、層の厚さも好調の理由と語る。そしてチームを束ねるアルテタ監督の手綱さばきが絶妙だと指摘する。
「控え選手は、フレッシュさの維持とクオリティの点で重要な役割を果たしている。途中出場の選手が試合に大きな影響を与えており、しかも全員が先発を争っている。
そもそも、これだけの選手層を持つチームを監督が維持していくのは容易ではない。選手は常にハングリーでなければならず、同時に、チームとして結束する必要もあるからだ。ベンチに回っても正しい姿勢で試合に臨むことが求められるが、アルテタ監督は全員の方向性を揃えている。彼らの目標は、プレミアリーグ優勝とCLの上位進出。同じ方向を向かせることで、指揮官はひとつに束ねているんだ」
バイエルン戦後、当のアルテタ監督は「まずは選手たちを称えたい。欧州最高のチームを相手に、彼らは最高の試合をしてくれた。選手一人ひとりが、巨大な存在感を示した」と選手たちの労をねぎらった。
そして、以下のように言葉を続けた。指揮官はバイエルン戦の勝利はあくまでも通過点とし、その先のチェルシー戦にすぐ視線を移した。
「勝負の世界は紙一重で決まる。先週末はトッテナムに勝利し、今回もバイエルンから貴重な勝利を挙げた。だがこの試合もこれで終わりだ。今日は家に帰って美味しい夕食を食べ、明日から次のチェルシー戦に向けて準備を始めるまでだ」
取材・文●田嶋コウスケ
【画像】ラブリー&ビューティー! 英女子代表FWクロエ・ケリーの厳選ショットをお届け!
【記事】狙い通り? 偶然? アーセナルの“超絶トラップ弾”が話題!「ノイアーのミスかと思ったけど…」「絶妙すぎた」【CL】
【記事】「アーセナルの未来は明るい」期待の15歳が強烈インパクト! 3人抜き衝撃弾にファン熱狂「信じられない」
