魅力的なキャラクターになったのは2人のおかげ
主人公・スカーレット役を芦田愛菜さんが演じています。キャスティングの決め手を教えてください。
今作はスカーレットという王女が、どのように人生を選択し、生きていくのか、という物語だと思うんです。復讐をする、ということは、人を倒そうと思っているということ。そういう人と真逆の、人を助けようとする看護師という職業のキャラクター・聖が一緒に旅をするという事で、対象的なドラマが生み出され、おもしろいと考えました。そんなスカーレットを演じることができる人というのは、日本のたくさんの素晴らしい俳優さんの中でも、芦田さんしかいないのではないかと思ったわけです。本作の声の収録が始まったとき、芦田さんはスカーレットと同じ19歳で、それでいてたくさんの経験値をお持ちなので、そういう意味でもピッタリでした。
そんなスカーレットと共に旅をする看護師・聖は、岡田将生さんが演じています。印象に残った瞬間はありますか？
岡田くんはもともととても優しい方で、実際に声の収録の間、人間性が聖とすごく近い人だなと感じていました。さらに岡田くんは『ハムレット』の舞台の経験があるんです。とても大変な役なので、若い方で役をこなせる人はなかなかいないんです。しかもドラマで看護師の経験もあるというのもあって、聖というキャラクターにピッタリじゃないかと思いました。
最初に声が入った映像をご覧になった感想は？
本作は“バディのロードムービー”のようなところがありますが、それぞれの声が際立ち、魅力的なキャラクターになったのは主演の2人のおかげだと感じました。
特に注目してほしいのは主演の2人それぞれが歌う劇中歌です。聖は人間性同様に素朴でいい歌声だし、スカーレットは運命を背負った人がささやくように歌い、本当にいい歌に聞こえます。歌手が歌う歌とは違う、キャラクター達が心の中で歌っているような、気持ちとリンクしたように聴こえ、とても素晴らしいなと思いました。
≪死者の国≫はここ数年の日本の状況に影響を受けた
細田監督にとって、今作はこれまでの作品の中でどんな位置づけになると感じていますか？
突然激しい作品を作ってどうしたんだって言われることもあるのですが（笑）、でも自分としては連続性があるなと思っています。例えば『バケモノの子』では、渋谷とバケモノの街・渋天街が登場しています。これって現世と魂の世界、というふうに今作と重なるかと思いますし、『未来のミライ』でも子供が生まれて、誰かが死んで、家族の中で命のバトンを渡す、いわゆる輪廻を描いています。テーマをだんだんと発展させてどんどん広がらせていくと、自分の中で「生と死」というテーマに自然に結びつき、今までで最も大きなスケールの映画になりました。
スケールの大きさというと、ルック（画面自体の視覚スタイル）も全く違うものになっていました。
物語だけではなく、絵作りも大きなスケールで作る必要があるなと思いました。通常のアニメ－ションの表現スタイル、今まで僕が作ってきたスタイルだけではなく、そこから一歩進めたような表現ですね。日本の手描きアニメーションの伝統を尊重しつつ、2Dと3Dを融合させたような新しい表現にチャレンジし続けてやっと作ることができました。いつもの手法だったら3年ほどで完成したかもしれませんが、4年半ぐらいかかっちゃいました（笑）。
物語の中では、銃や争い、貧困、通り魔など、世界が抱えている問題が提起されていたように感じます。さらに作品に登場するドラゴンからは天災のような恐怖を感じました。
ドラゴンはさまざまな解釈がありますよね。この映画でベネチアやトロント、ニューヨーク、ロサンゼルス、台北も行ってきましたが、国ごと人によって、解釈が違うんです。日本人と台湾人は天災と言う方が多かったり、別の国の人は運命や神様だったり。いっぱい解釈があっておもしろいですよね。
反対に人種や文化を超えた人々の交流も描かれていました。このようなことが続いてほしい、目を向けてほしいという思いは込められているのでしょうか？
前作『竜とそばかすの姫』が公開されたのが、コロナ禍ど真ん中の21年で、その時、同時に行われていたのが東京オリンピックだったんですね。なかなか思い通りに進まない状況で行われたでしょ？ そして日本が次に大阪・関西万博に向かう時に、本作を考え始めたんです。東京オリンピックから大阪・関西万博の流れで、たくさんの国の人たちを日本が迎え入れて、盛り上がりましたよね。作中に出てくる≪死者の国≫には、世界中の様々な宗教、様々な国の人、しかもいろいろな時代の人が一堂に会しているのは、ここ数年の日本の状況を表している感じがします。その影響は確かに受けたんじゃないかと、今話していて思いました。
