バフェットも孫正義も市場から資金を引き上げる
そして、この孫氏の動きの延長線上に浮かび上がるのが、ウォーレン・バフェット氏である。彼はいま、史上最大規模のキャッシュを積み上げ、日本株からも静かに距離を取っている。
投資哲学も時代背景も異なる二人の天才が、ほぼ同じタイミングで市場から資金を引き上げたという事実は、偶然ではなく、長い経験を通じて培われた“市場の本能”が働いていると考えるほかない。
市場が最も熱狂している時期にこそ、深い経験値を持つ者たちは静かに身を引く。これは歴史が繰り返し証明してきた市場の真理であり、私はこの動きを単なる投資判断としてではなく、時代の潮目として捉えている。
この国がいよいよ「神話の終焉」の最終局面へと向かっている
対照的に、エヌビディアの決算発表によって日経平均が不自然なほど跳ね上がった現象は、日本市場の脆弱さを露わにした。
日本企業の業績でも改革の成果でもなく、米国の1企業の好決算だけで指数が暴騰するという事実は、日本市場が自律性を失い、外部依存の熱狂に乗せられている証であり、バブル末期に典型的に見られる現象である。
つまり、孫氏とバフェット氏が「熱狂から静かに距離を取った」のに対し、日本市場はその外部の熱狂に再び酔いしれたという構図であり、この対比こそが現在の日本の危うさを象徴している。
私は、円安と株高の過剰反応が強まれば強まるほど、この国がいよいよ「神話の終焉」の最終局面へと向かっていると感じている。延命され、誤魔化され、積み上げられてきた見せかけの強さは、いま落差だけを肥大化させている。
構造は高く積み上がれば積み上がるほど、崩れた時の衝撃は大きくなる。逆回転とは、その落差が一度に噴き出す現象であり、円だけでなく、株も債券も心理も、一斉に裏返る潮目の転換である。

