何を、いつ、どれぐらい、どのように食べるか。体が資本のアスリートにとって、食事はパフォーマンスに直結する重要な要素だ。一方でスポーツをがんばる子どもたちの保護者からは、どうしたらよいかわからないと悩む声が聞こえてくる。料理好きを自認する水泳・鈴木孝幸がその腕前を披露しながら、スポーツ栄養士とともに栄養の基本を語った(※)。
※本記事は、パラスポーツを応援する人を増やす東京都のプロジェクト「TEAM BEYOND」の小学3~6年生親子向けワークショップ「パラアスリートと料理教室 おいしく食べて強くなろう!」から構成しました。
少ない食材が続けられる秘訣
日々、ハードなトレーニングに取り組んでいる鈴木孝幸(以下、鈴木選手)。集まった小学生の親子に、食の重要性をこう伝える。
「トレーニングで疲れるので、いっぱいご飯を食べて栄養をとりつつ、睡眠もしっかりとって回復に努めています。食事はとっても大事です」
「大人になって料理をするようになってから、料理が好きになった」と語る鈴木選手の得意料理の一つが麻婆豆腐だという。
食事の大切さを語るスポーツ栄養士の鈴木志保子氏(左)と金メダリストの鈴木孝幸©Tokyo Metropolitan Government
「いろいろなものが食べたくて、なるべく少ない食材で続けられそうなものから作っているのですが、麻婆豆腐はお店のものや市販の素だと、わたくしにはちょっと辛するぎるんです。でもレシピを探したら、しょうゆやみそなど家にある調味料でできるし、辛さも調節できる。しかも、作ってみたらおいしかった。以来、よく作る料理の一つになっています」
鈴木選手が実際に使っているレシピで、調理の様子を披露。指が欠損している右手で食材や瓶、フライパンなどを押さえたり支えたりし、3本の指がある左手で包丁やレードルをつかんだり、瓶のふたを開けたりする。
左手の3本の指で鉛筆を握るように包丁を持ち、食材を切る©Tokyo Metropolitan Government
「(鷹の爪ならぬ)タカの爪を使ってもいいけど、指を切ったら……」
「『今日は大好きな子に会うから口臭くなりたくないぞ』というときは、ニンニク少なめにする(笑)」
鈴木選手は、場を和ませながら作業を進める。
海外遠征時はパックご飯を持参し、ほかの選手と半分ずつシェアするといったエピソードも披露。軽妙な語り口で参加者も自然と笑顔に©Tokyo Metropolitan Government
とりわけアスリートらしさが感じられたのは、豆腐の選び方だ。約10年前から鈴木選手の栄養指導を行い、競技生活を支えてきた公認スポーツ栄養士の鈴木志保子氏(以下、志保子先生)はこう説明する。
「豆腐には木綿豆腐と絹豆腐がありますが、いわば絹豆腐は豆乳を固めたもので、木綿豆腐はそこにおからが入っているイメージ。木綿の方がより栄養価が高いので食の細いお子さんにはおすすめですし、豆腐ステーキなどほかの料理にもアレンジできます。料理によって使い分けてみて」
計量スプーンを使って味つけ©Tokyo Metropolitan Government
仕上げに垂らすごま油の量もポイントだ。
鈴木選手は、こう語る。
「以前、先生に栄養調査をしていただいたことがあるのですが、1週間の食事をすべて写真に撮り、体重を記録したことで、何食べたらちょっと太るといったことがなんとなくわかるようになりました。麻婆豆腐も最初はレシピ通りに作っていたのですが、ちょっと体重が増えたなとか、お腹が疲れてるなというときは、油の量を調節したりしています」
志保子先生も、アドバイスする。
「食が細く、エネルギーをもっととりたいお子さんには、ちょっとごま油を加えることでカロリーアップするといいですよ」
苦手な野菜は?
麻婆豆腐とともに披露したのが、ブロッコリーとトマトのサラダ。実は野菜が好きではないという鈴木選手のために、志保子先生が伝授したレシピだという。
鈴木選手が普段食べている食事の例。ブロッコリーとトマトのサラダはマスト©Tokyo Metropolitan Government
「イギリスに住んでいたころに教わりました。これだけ食べておけばいいと先生が言ったから、以来、今に至るまで毎日作っています。(何を作ろうかと)迷わない」
志保子先生は説明する。
「野菜の種類が多いレシピだと食材を用意しても使い切れず、キュウリがキュウリじゃないみたいな状態になってしまいます。その点、ブロッコリーは冷凍できますし、トマトは生でも日持ちする。しかも、どちらもほぼ世界中にある食材なので、どこに行っても食べられます」
レシピといっても、レンチンしたブロッコリーとくし切りにしたトマトを一緒に器に盛るだけ、と簡単なのもいいところ。
「実はわたくし、ブロッコリーは茹でるよりもレンチンが好きでございまして。茹でると栄養が逃げてしまいますので、いつもこうやっております」と鈴木選手が言えば、「(ブロッコリーに含まれる)ビタミンCは水に溶けるので、茹でるとビタミンCが茹で汁に出てきちゃうんです。だからもれなく(栄養を摂りたい)と考えると、レンチンの方がいい。なべを洗う手間も省けます」と志保子先生。
これに白飯を添えることで、バランスのよい一食のできあがりだ。
実際に麻婆豆腐を作る親子の様子を見て回る©Tokyo Metropolitan Government
