2004年、「一場事件」の余波によって、能力を発揮できぬままわずか8年でプロ野球から引退した一場靖弘氏。そのプロ生活に負けず劣らず、彼のセカンドキャリアも波乱万丈だった。〈前後編の後編〉
野球少年や独立リーガーを指導する日々
――現在は何をされているんですか?
一場靖弘(以下、同) 今は保険代理店の「ほけんのぜんぶ」という会社で正社員をやりながら、出向という形でホールディングス(株式会社ZENB HOLDINGS)が展開するベースボールアカデミー(ゼンブアカデミー)の代表と、業務委託で独立リーグ球団「山梨ファイヤーウィンズ」で投手コーチをしてます。
――肩書が3つも!? 忙しそうですね。
三刀流ですからね(笑)。ただ、今は講師だけでなく代表としてアカデミーの経営もやっているので、これが業務のメイン。そのスキマ時間で保険の仕事やファイヤーウィンズのコーチをやってるって感じです。
――アカデミーの生徒の年齢層は?
小1から中3です。
――いわゆる今どきの子たちですけど、どのような指導を心掛けていますか?
僕は一切怒らないですね。誉めもしませんが。
――理路整然と?
そうですね。ラプソードや電子カルテのデータを活用して、何がよくて何がダメなのかをアプリで共有して指導しています。
子供たちには「野球は頭を使わなくてはできないよ」ってことを知ってもらいたいので。
――ハイテクですね。
僕が代表になる前はけっこうワイワイと楽しんでやる雰囲気だったんですけど、せっかくだったらドラフト候補になるような選手を育てたいじゃないですか。
――今年から山梨ファイヤーウィンズの投手コーチも務められましたが、こちらはいかがでしたか?
縁もゆかりもない土地ではありますが、野球で地方を盛り上げられたらと思ってやってます。球団もアカデミーもうちのホールディングスの中の生活支援領域事業のひとつなので。
――ファイヤーウィンズはルートインBCリーグのBC-Westでは残念ながら4位で最下位でした。
力はあるし、上位のチームとの差はそこまで感じませんでした。打線はいいのでもっとピッチャーが試合をつくって投打がかみ合えば全然イケますね。
まぁ、チーム防御率が悪いのは投手コーチである僕の責任でもあるのですが……(苦笑)。
投資失敗について語る
――引退して13年。現在やりがいのある仕事ができている?
そうですね。マスコミには「仕事を転々としてる」と書かれることもありますけど、ちゃんと自分で設定した目標をクリアして次に移ってるんですよ。
引退直後に就職した看板製作会社は最初から1年限定という話だったし、次の通信機器会社のパー電(パーソナル電電。現パーデン株式会社)では2期目で課長になって成績も3位になりました。
――営業の仕事に向いていた?
営業は好きというわけではないですが、結果が出れば楽しいですからね。よくも悪くも僕のことを知ってる人は少なくないですし。
それでヘッドハンティングされて外資系保険会社のジブラルタ生命保険に転職して新人で営業成績ランキングにも入りました。そこには5年半務めましたね。
――そこからどのような経緯で今の会社に?
「学生野球資格」を回復したので保険会社で働きながらスキマ時間に知り合いの子供たちを相手に教えてたんですが、ふと「これを仕事にすればいいじゃん」と。
それで、個人で野球スクールをやったり、「野球を教えながら働いていい」という条件で引退直後にお世話になった看板製作会社に出戻りしたんですけど、ヤクルト時代の3つ後輩の加藤(幹典)が私の少し前にこの会社に入っていて、「うちなら保険と野球の両方できるし、稼げるよ」と誘ってもらい、入社することにしました。今は4年目になります。
――保険の仕事もしたかった?
ある程度がんばれば稼げることも知ってますからね。
――ということは、今はけっこう儲かってるんですか?
まぁ、内緒です(笑)。
――込み入った話ですが、投資を失敗されたと聞きました。楽天時代に仙台市内に購入したマンションが東日本大震災で半壊。価値が激減して売却してもローンだけが残ってしまって苦労されたとか。
ローンを組んだのが不正な不動産融資で社会問題になったスルガ銀行だという……。ホント僕ってつくづく運がない(苦笑)。でも一応そこは解決して、特に今の生活に支障はありませんよ。

