「大勢に売る商品」ではなく「一人への仕事」がやりがい
西出さんがこれまでで一番やりがいを感じた仕事は、亡くなった女の子を描いたことでした。
「その子は『社会不適合』と言われていたようですが、お母さんの話を聞いているうちに、本当はそうじゃないと思ったんです。社会にとても適応できていて、なんでも受け入れられる子だったと。だから、真っ白な子として描きました。周りにはペンギンなどのいろいろな動物を描いて、みんなと仲良くできる子として。『本当はこうだったでしょう?』って。絵をお母さんに渡した時、何も言わずに涙を流してくれました。それがすごくうれしかった」
現在の西出さんの仕事のほとんどは、このように依頼者との深い1対1の関係性に支えられています。

「私、1対1なら大丈夫なんです。大学時代には個別指導の塾講師もできたし、ホステスとして一人で来店されるお客さまと接する仕事もできた。でも会社員時代は大勢の人の顔色をうかがって疲弊していました。今は1対1の付き合いが多いので、なんとかやれています」
このはたらき方にたどり着くまで、西出さんは意図的に関わる人を絞り込んできました。以前は仕事の依頼を受けるためにSNSも活用していましたが、今はすべてやめています。
「今は、本当に熱量が高くて、私のことを深く理解してくれる人とだけ仕事をするようにしています」
そうして関係性を築いてきたからこそ、今西出さんのもとに届くのが、言葉では表現しきれない複雑な感情や、家族の複雑な関係性を絵として昇華してほしいといった依頼なのです。こうした仕事を通じて、西出さんは自分なりの“はたらく意味”を見出しています。

「私は、有名な画家じゃない。たった一人のために絵を描いて、生活している人間なので、作品は手元に残っていないんですけど……。こうやってはたらいて、生きている今が一番幸せかもしれません」
そう語る西出さんの表情は、とても穏やかでした。
生きづらさを抱えるすべての人へ。「迷惑=悪いこと」じゃない
西出さんは生きづらさを抱えながらはたらく人たちへ、こんな言葉を残します。
「『人に迷惑をかけていい』と思うことが大切ではないでしょうか。人の顔色をうかがうのではなく、自分のやりたいことをはっきりさせて、『これはできる』『これは無理』を周囲に伝えればいいんです。できるだけ自分のストレスがないように。自分らしく生きるって多分、『人に迷惑をかけて生きる』ことなんだと思います」
そう言い切る西出さんは、自分らしく生きることの代償も理解しています。

「人に迷惑をかけると、たくさんの人が離れていくでしょう。『めんどくせぇな、こいつ』って。でもいいんです、自分が捨てたと思えばいい。それでも分かってくれる人、離れずにいてくれる人を探し続けることが大切です」
最後に、「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするためのアドバイスを伺いました。
「辛くなったら『5歳の自分ならどうする?』と考えてみるといいんじゃないかな。逃げるのか、立ち向かうのか、それとも別の方法を取るのか。“子どもの自分”なら、きっと素直に動けるはずです」
「今この場にいるのがつらいとき、次に行く準備をしてから辞めなきゃと考えがちですが、準備なんてしなくていい。辞めたら準備できるので。こうなっちゃったから、こうする。それでいいんです」
自分らしいはたらき方を見つけた西出さんの言葉には、計画通りにいかない人生を受け入れながらも、前に進み続ける強さがありました。

(「スタジオパーソル」編集部/文:間宮まさかず 編集:いしかわゆき、おのまり)

