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観るだけから体感するへ──"泉佐野フィルムフェスvol.2"が作り出した、新しい感動体験

観るだけから体感するへ──"泉佐野フィルムフェスvol.2"が作り出した、新しい感動体験

大阪・泉佐野市といえば、ふるさと納税で全国トップクラスの実績を誇る自治体として知られる。その泉佐野市が仕掛ける「泉佐野フィルムフェスvol.2」(エブノ泉の森ホール) が11月29、30日に開催された。

今年3月に開催された第1回は、映画をより身近な存在にするための「エンタメ映画祭」としての性格が強く、関西国際空港を擁する地の利を活かしたロケ誘致への意欲が見える内容だった。それからわずか8カ月。「文化の秋」である11月に時期を移して開催された第2回は、進化と戦略の深化を感じさせるものとなった。

年に2回開催となったのは、年度末での区切りの問題だという。泉佐野市の千代松大耕市長は「3月は年度末の多忙な時期ということもあって、十分な周知や準備ができなかったこともありました。今後は文化の秋である11月に開催したい」と語る。

第2回の大きな特徴は、スクリーンの中と外の世界がリンクするライブ感だ。MONGOL800の名曲をモチーフに、沖縄の高校生たちが音楽活動に身を投じる姿を描いた『小さな恋のうた』(2019) では、MONGOL800のキヨサクが上映後にミニライブを敢行。さらに、大阪を舞台にしたご当地映画『わたしの、途切れない物語。』(監督・永田琴) でも、6人組女性ダンス&ボーカルグループ「Buzy(ビズィー)」の元メンバーで主演の當山奈央がライブパフォーマンスを披露した。

映画の余韻冷めやらぬまま、劇中の音楽や主題歌が生で響き渡る——。「映画×音楽」の相乗効果によって、単なる鑑賞を超えた立体的な感動体験がそこにはあった。こうした企画制作からフィルムフェスの運営までをトータルで手掛けたのは、さぬき映画祭などを手掛けてきた制作会社「ロボット」の丸山靖博氏だ。

丸山氏は、運営面でも「有料上映」から「無料上映」主体へと舵を切った。市民が気軽に来場できる環境を整えた結果、『小さな恋のうた』の上映には800人近い観客が詰めかけた。開催時期の変更と無料化の戦略は、映画祭を地域に「定着」させる上で大きな効果を上げていると言えるだろう。

今回、吉永小百合主演の『最高の人生の見つけ方』(2019) で参加した犬童一心監督はこう語る。

「かつては二番館、三番館という映画館があり、吉永小百合特集が組まれれば、公開から数年が経っても、映画館のスクリーンで見ることができた。しかし、今は配信でモニター越しに映画を見る時代。この映画祭は無料ですし、みんなが集まってスクリーンで見る機会を生かしてほしい」

さらに犬童監督は、若者の参加も呼びかける。

「作り手や出演者が実際に来て話をしてくれます。映画を作っている人間や出ている人間は一見、遠い存在と思うかもしれませんが、実際は『ただのおじさんやおばさん』であり、普通の人間が職業としてそれを選んでいるだけだと分かります。『色々なやりたいことの中に、映画作りという選択肢がある』ということを、生身の人間を通して知ってもらうことは、若い人たちの職業選択にとっても良い機会になるのではないでしょうか」。このメッセージは、この映画祭が単なる観光イベントではなく、次世代の職業観を育む「教育の場」としての側面も持っていることを示唆している。

泉佐野市は、大手ポータルサイトに頼らず直営のふるさと納税サイト「さのちょく」を運営し、手数料を削減して納税者に還元するという独自のビジネスモデルで成功を収めている。

千代松市長は、市長がフィルムフェスの視察に訪れた神奈川県鎌倉市を例に出し、「泉佐野市には鎌倉のような歴史遺産はないが、今回、市を紹介するショートムービー (『キバちゃん泉佐野へ行く 食王への道』) を作ったように一歩一歩コンテンツを積み上げていきたい」と語った。

ないものねだりをするのではなく、ご当地映画のようなコンテンツを自ら作り、クリエイターを呼び込み、ファンを増やす。この泥臭くもしたたかなアプローチこそが、泉佐野市らしい戦略と言えるだろう。

第1回のフィルムフェスを機に、民間主導によるフィルムコミッションも2年後の設立に向けて準備を始めた。だが、「本格的なロケ誘致には、市内ツアーなどのアピールも必要」と犬童監督が提言するように、課題はまだ多い。 丸山氏も「新聞折込にチラシを入れたり、学校への配布など周辺地域へのプロモーションに力を入れたことで動員増に一定の成果を上げることはできましたが、東京からやってきた我々ができることは限られている」と語る。

映画祭は、映画ファンの増加と地域の発展をWin-Winの関係で結びつける可能性を秘めている。ロボットのようなプロの知見と、地元の熱意がどう融合していくか。泉佐野の挑戦はまだ始まったばかりだ。

文 ・撮影 / 平辻哲也

配信元: otocoto

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