誰もが胸の奥に秘めている「懐かしい味の記憶」。
子どもの頃、親に連れて行ってもらった洋食屋のオムライス、学校帰りに立ち寄った喫茶店のナポリタン。
それは、純粋で飾らない「ウブ」な気持ちを象徴するソウルフードです。
六本木七丁目に現れた異色のワインバー「ウブ(UBU)」は、その記憶をただの追体験で終わらせません。
一流の技術と贅沢なワインという「大人の品格」で武装し、ノスタルジーを現代の最高峰の美食へとアップデートする、まさに「懐かしさ」をテーマにしたガストロノミーバーなのです。
I. 進化を遂げた「大人の洋食」:イノベーションと記憶の交差点

「ウブ」の料理は、遊び心と真剣さが同居しています。
メニューの主役は、あくまでも「記憶の中の洋食」。
しかし、その調理法は、我々が知るそれとは全く異なります。
1. 最新技術が解き明かす、ソウルフードの「本質」
厨房では、驚くほど革新的なアプローチが取られています。例えば、真空調理器や、風味を抽出・濃縮するガストロバックといった最新鋭の機器が駆使されています。
ナポリタンの再定義: 喫茶店のナポリタン特有の、あの香ばしさとパンチの効いた風味。それを最新技術で丁寧に抽出し、食感やオイルの軽やかさを極限まで洗練させることで、重厚な赤ワインと並び立っても遜色ないエレガントな一皿へと昇華させています。
オムライスの再構築: 子どもの憧れであったオムライスは、卵の火入れ、ソースの深み、ライスとのバランスなど、あらゆる要素が緻密に計算され尽くした、コースの一皿として完璧な仕上がりです。
これは単なる「創作料理」ではなく、懐かしい味の「本質」を科学的に解き明かし、最高峰の食材で再構築する挑戦と言えるでしょう。
2. DRCと共鳴する、贅沢なペアリング

このイノベーティブな洋食とタッグを組むのが、セラーに眠る贅沢なワインたちです。
世界中のワインラヴァーが憧れるDRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)をはじめ、厳選された銘酒が並びます。
グラスワインも¥3,300~という価格設定は、この特別な料理体験への期待感を高めます。
思い出の味を、時の流れを超えて成熟した最高のワインとともに味わう。
これは、子どもの頃には決して許されなかった「大人の特権」を存分に享受する、至福のひとときです。
Ⅱ.700冊の物語が築く、「ウブ」な空間の哲学

「ウブ」の魅力を語る上で、料理やワインと同等に重要な要素が、その空間デザイン、特に圧倒的な存在感を放つカウンターバックの本棚です。
1. 8メートルカウンターが映し出す「時間軸」
店内には、長さ8メートルにも及ぶ重厚感ある一枚板のカウンターが据えられています。11席という限られた座席数は、シェフやソムリエとの距離感を縮め、濃密な体験を約束します。
そのカウンターの背後、壁一面を埋め尽くすのが、約700タイトルの名作漫画コレクションです。
1930年代から2020年代まで、時代を超えて愛される作品の「第一巻」のみが厳選され、整然と並べられています。
この漫画の壁は、単なる内装ではありません。
それは、ゲスト一人ひとりの人生の時間軸と並行して流れてきた「物語の歴史」そのものを象徴しています。
2. 「子どものように会話が咲く」温かいムード
格式高い六本木のワインバーでありながら、この漫画の存在が、形式的なバーの緊張感を打ち破ります。ワインを片手に、「この漫画、子どもの頃夢中で読んだよ」「あのシーン、覚えてる?」といった、純粋で他愛のない会話が自然と始まります。
「子どものように会話が咲く」という店のムードは、ウブな気持ちを解放する装置として機能しています。
漫画という共通言語は、初対面のゲスト同士でも壁を取り払い、居心地のいい温かい雰囲気を作り出しています。
