世界一のサーカスを目指し、ごく普通の大学生が木下大サーカスに入団して2年目の冬。京都・梅小路公園の夜は死ぬほど寒かったが、公演後のテントでは地獄の練習がいつも通り行われていた。そして……
銭湯で練習仲間から「夢は何か?」と問われ、その場のノリで「野球選手」と答えた結果……なぜか本気で受け止められ、厳しい練習後に1人でバットを振り続ける生活が始まった。というのが、これまでのあらすじである。
冗談半分で語った夢が、気づけば本気の挑戦へと変わっていく。そのスイッチが入ると、物語は思わぬ方向へと転がり始めたのだった。
・サーカス団員の夢
木下サーカスは京都から名古屋、岡山、松山へ。厳しい日々を重ねるうちに、舞台に立たない私もマットの上でバク転ができるようになっていた。
世界三大サーカスの舞台で披露できるような華麗な技ではないが、残業中の営業社員が舞台をのぞくたびに得意げにバク転を披露するのがちょっとした恒例に。
10代の彰吾はさらに難しい「前方宙返り」もマスター。たまに頭から落下して夜の舞台に笑いが起こることもあったが、怪我ひとつなく立ち上がる姿には若さと勢いがあった。
そんな汗と笑いにまみれた日々が、練習生たちを着実に強くしていったのである!
そして練習後半、彰吾とマ〜シ〜が「オープニングショーのアクロバット」のデビューを目指してトランポリンやシルクを使ったパフォーマンスを磨く一方で、私は、ブンッ! ブンッ! とただひたすら野球のバットを振っていた。
・話題のチームに入りたい
目標はテレビで見かけた「茨城ゴールデンゴールズ」に決めた。タレント・萩本欽一さんが低迷する野球界を盛り上げるために立ち上げたばかりの社会人野球チームである!
2005年に創立され、2007年に全日本クラブ野球選手権で優勝。「欽ちゃん球団」としてメディアで大々的に報じられ、当時は人気・実力ともに絶頂のアマチュア球団だった。
ここに入団すれば超満員の球場で野球ができる。もしかしたら「サインをください」と言われる日が来るかもしれない……! そんな妄想を胸に、私はサーカス流の野球トレーニングに取り組むことにした。
