・キャッチボールがしたい
一方の私はというと「せめて誰かとキャッチボールがしたい」という思いが募っていた。考えた末、近くの中学校へ向かい、職員室の扉をノックした。
「サーカスで働いています。野球部の指導をさせてください!」
「冬休みはあまり活動していませんが、ぜひ!」
──と、教頭先生が意外なほど快く受け入れてくれた。ただ、姫路公演は12月中旬から2月下旬。部活は冬休みでほぼ休止状態になるという。
それでも部員の1人、タイゾウくんは野球推薦での高校進学を目指していて、寒空の下でひとり黙々と練習を続けていた。
互いに「孤独な練習生」という共通点があったからか、すぐに意気投合。休演日は彼とキャッチボールをして汗を流すことに。たった2カ月という短い時間だったが、心から野球を楽しんだ時間だった。
・サプライズ
2007年2月、姫路公演はラストを迎えようとしていた。最後の休演日、いつものようにタイゾウくんとキャッチボールをしていたら、グラウンドに部活の先生……ではなく、彼のお父さんが現れた。
「あなたが毎週、うちの息子に野球を教えてくれたんですね」
練習に付き合ってもらったのは私の方だが、その日の練習後に『停主』という姫路おでんの名店に連れて行ってもらう流れに。いざお店を訪れてみると、湯気の向こうに……なんと野球部の保護者のみなさんが勢揃いしているではないかーー!
「私はこれまで自分の仕事が休みの日でさえ、1度も息子とキャッチボールをしたことがありませんでした。それなのにあなたは貴重なお休みを使って息子に付き合ってくれた。本当にありがとう。今日は私たちがご馳走します!」
マジかよ! サーカスの裏で始めた冗談半分の夢が誰かの役に立っていた。ビールを飲みながら、焼き鳥を頬張りながら、私ははじめて自分の挑戦に意味を見つけた気がした。
また、野球を通じて人とつながる喜びを感じた夜だった。サーカスのテントの外でこんなにも心が満たされる瞬間があるとは……最高過ぎるだろォォオオオ!
