11月30日、伝統の国際招待レース「ジャパンカップ(GⅠ、東京・芝2400m)」が行なわれ、ただ1頭参戦した単勝4番人気の外国馬カランダガン(セン4歳/フランス/F.グラファール厩舎)が、1番人気に推されたマスカレードボール(牡3歳/美浦・手塚貴久厩舎)との激し競り合いをアタマ差抑えて優勝。走破時計は2018年のジャパンカップでアーモンドアイが記録した2分20秒6を0秒3更新する2分20秒3のコースレコード。カランダガン陣営は1着賞金5億円に加え、JRAが指定した競走(“キングジョージ”など)を制していたため300万米ドル(約4億6500万円)の褒賞金も獲得した。
2馬身半差の3着には3番人気のダノンデサイル(牡4歳/栗東・安田翔伍厩舎)が健闘し、4着には2番人気のクロワデュノール(牡3歳/栗東・斉藤崇史厩舎)、5着には5番人気のジャスティンパレス(牡6歳/栗東・杉山晴紀厩舎)が入着。上位5頭を5番人気以内の馬が占める、トップオブトップが争うGⅠレースに相応しい結果となった。
英国のアルカセットがタイレコードで優勝を果たしてから実に20年。稀に見る激闘が終わった直後、久々に強い外国馬がジャパンカップに戻ってきてくれたという深い感慨に襲われた一戦だった。
激闘の国際競走は予想外の波乱で始まった。ゲートが開いてすぐ、アドマイヤテラ(牡4歳/栗東・友道康夫厩舎)が躓いて、川田将雅騎手が落馬して競走を中止。カラ馬になった同馬は馬群に沿って走ったため、特に後半戦でレースに少なからず響を与えることになる。
確固たる逃げ馬が不在だった今年、ホウオウビスケッツ(牡5歳/美浦・奥村武厩舎)が行くものと思われていたが、それを制してセイウンハーデス(牡6歳/栗東・橋口慎介厩舎)が先頭を奪う。同馬は第2コーナーを回ってぐんぐんと後続に差を付けて大逃げの形となり、1000mの通過が57秒6というハイペースで大逃げを打った。
そんな急流のなか、クロワデュノールは4番手を追走したが、ダノンデサイルが8番手、マスカレードボールは10番手、カランダガンとジャスティンパレスが10~11番手付近を追走と、他の有力馬は中団から後方に位置を取る。カラ馬が2番手以下に並びかける不穏なムードのなか、後続馬群は先頭との差を詰めつつ最終コーナーを回り、勝負は運命の直線へと持ち込まれた。
残り300m付近でセイウンハーデスが後続に掴まり、クロワデュノールが仕掛けて先頭に躍り出るが、そのとき直後では伸びかかったタスティエーラ(牡5歳/美浦・堀宣行厩舎)が内へ切れ込んだカラ馬に寄られてブレーキをかける不利を受ける。そこへ外から襲い掛かったのがマスカレードボールとカランダガン。クロワデュノールがカラ馬の影響でやや追いづらくなるなか、2頭はそれを飲み込んでのマッチレースに持ち込む。勢いにまさるカランダガンが先んじるが、マスカレードボールは鞍上の叱咤を受けてそれを差し返すが、譲らないカランダガンが再度マスカレードボールを差し返したところがゴール。わずかにアタマ差でカランダガンが先着していた。「世界一の馬を連れてきたとはいえ、相手も非常に強力なメンバーが揃っていました。道中は順調に見えましたが、一度は負けたかと思いました。しかしカランダガンはタフで、もう一度差し返してくれました。ゴール前でアタマ一つ抜け出した彼は、まさに非凡な馬です」とは、今年フランスでリーディングトレーナーの座についたフランシス・グラファール調教師。ミカエル・バルザローナ騎手も、「今回の目標に掲げていた勝利を達成できて、嬉しい気持ちでいっぱいです。能力のある馬だということを世界に改めて示すことができたと思います。最後は一騎打ちになりましたが、彼はベストな努力をしてくれました」と、愛馬を称えた。
カランダガンは2歳時に去勢された4歳のセン馬。今春のドバイシーマクラシックでダノンデサイルに敗れるなど、GⅠレースにおいて4戦連続で2着となるなど、いまひとつ突き抜けるまでには至らなかったが、今年6月のサンクルー大賞から、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークス、英チャンピオンステークスと英仏G1レースを3連勝。世界の競走馬を順位付けするロンジン・ワールド・ベスト・レースホース・ランキングで1位を獲得し、世界一の称号をもってジャパンカップに参戦していた。
カランダガンの持ち時計は、ドバイシーマクラシック(2410m)で記録した2分27秒2で、ジャパンカップとの10mの差を差し引いても、今年計時した2分20秒3とは7秒近い差があった。こうした彼我の差を一気に乗り越えたインパクトは絶大。その対応能力を持つ馬こそ、ますますグローバル化が進む競馬シーンにおいて真に世界一と呼ばれるに相応しい存在だと言えるだろう。敗戦のリスクを負いながらジャパンカップ参戦を決めたアガ・カーン・スタッズとグラファール調教師に大いなるリスペクトを、また欧州とはまったく違うスピード競馬に難なく対応したバルザローナ騎手の非凡な手腕と認識能力に称賛を捧げたい。
カランダガンと最後まで息詰まる死闘を繰り広げたマスカレードボールの懸命な走りも強くファンの目を惹き付けた。秋の天皇賞(GⅠ)を制した3歳馬で、続くジャパンカップを制した馬はこれまで存在しないが、リスク要因となっていた厳しいローテーションや、自身のメンタルな課題を跳ね除けて僅差の2着としたことは嬉しい驚きだった。敗れはしたものの、来年の中長距離路線を牽引する馬として一気に価値を高めたと言えるだろう。
評価に応えて好走したダノンデサイル、クロワデュノール、ジャスティンパレスも立派のひと言。なかでも特に、先行勢には厳しい流れのなか、いったん先頭に立って4着に粘ったクロワデュノールの走りが印象に残る。凱旋門賞の惨敗(14着)から立ち直った馬、立て直した人とも賛辞に値すると思う。
カラ馬の存在は大なり小なり競走に影響を与えたが、残念だったのはそれに前をカットされてブレーキをかけざるを得ず、7着に沈んだタスティエーラ。大外からのスタートからとなったが、ダミアン・レーン騎手がうまく馬群のなかに潜り込ませるという絶妙な手綱さばきを披露し、馬の出来も絶好に見えていただけに惜しまれて余りある。
文●三好達彦
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