この滑稽さに、彼は気づいていない
石破氏は、自身のこうした姿勢を「バランス感覚」だと思っている節がある。
西日本新聞の取材に対し、高市首相の答弁について「歴代政権はバランス感覚を持って対中外交をマネジメントしてきた」「デリケートかつ、ガラス細工のような議論であるべきだ」と苦言を呈している。
ガラス細工––––確かに、外交には繊細さが必要だ。彼が好んで使いそうな、知的で慎重な響きを持つ言葉である。
しかし、今の東アジア情勢を直視してほしい。中国という巨大な象が、軍事力を背景に暴れまわり、ガラス細工を粉々に踏み砕こうとしているのが現実ではないか。
壊そうとしている相手に対して「壊すな」と言わず、必死にガラスを守ろうとしている高市総理に向かって「もっと静かに扱え」と説教をする。この滑稽さに、彼は気づいていないのだろうか。
繊細な議論が必要なのはわかる。だが、それは相手も繊細な手つきで扱ってくれる場合に限られる。相手がハンマーを振り上げている時に、こちらだけがガラス細工を扱うような手つきをしていては、指ごと叩き潰されるのがオチだ。
高市早苗総理の政策や発言には、確かに危うさがある。それを批判するのは構わない。だが、批判するならば、同時にその原因を作っている中国に対しても、毅然とした態度を示すべきだ。「日本を脅すな」と一言言えばいい。
「石破前首相は、黙りなさい」
それができないのであれば、それは「バランス感覚」などではない。単なる「臆病」であり、さらに言えば「卑怯」である。
そもそもアジア版NATOなどという、愚にもつかない非現実的な政策を掲げて、即行で取り下げたのは石破氏だ。
石破茂氏に告ぐ。
あなたが総理大臣経験者としてなすべきことは、高市総理の揚げ足取りではない。ましてや、中国のご機嫌取りでもない。
「中国の横暴は許さない」という、主権国家としての当たり前の意思表示だ。もしそれが口にできないのなら、あるいは口にする勇気がないのなら、せめて沈黙を守ってほしい。
あなたの「中途半端な正義感」に基づいた言葉は、今、日本の立場を弱くし、国民を不安に陥れている。
かつて鳩山由紀夫氏は、総理退任後も独自の外交を展開し、国民を呆れさせた。
石破氏には、「第二の鳩山」にならない賢明さを期待したいところだが、今の振る舞いを見る限り、その期待は裏切られつつあるようだ。
「石破前首相は、黙りなさい」。
乱暴な言葉に聞こえるかもしれないが、これこそが、今の日本が混乱を避けるために彼に送るべき、最も的確なアドバイスなのかもしれない。
文/小倉健一

