NPOの活動現場では、人と向き合う時間が長いからこそ、支援する側が孤立したり、悩みを抱え込んでしまったりすることが少なくありません。誰かの力になりたい思いがあっても、相談できる相手がいないまま日々の業務に追われ、気づけば疲れが溜まってしまう…。そんな“支援する人の孤独”に光を当てる取り組みがあります。
認定NPO法人サービスグラントでは、子育て中の女性たちが2人1組の「メンター」としてスタッフに伴走し、仕事やキャリアの悩みを整理したり、次の一歩を一緒に考えたりするプログラムをスタートしています。仕事の経験だけでなく、育児の中で自然と身につく“聴く力”を活かして、オンラインで月2回、3か月間にわたり寄り添っていく形です。
支援の対象となるのは、地域や社会課題に向き合うNPOの職員や運営者の方々。支援者が元気でなければ、必要とする人に適切な支援が届きにくくなるという現場の課題に向き合うものです。さらにこの取り組みは、参加するママたちにとっても社会とのつながりを取り戻す機会になり、自分の経験が誰かの力になっている実感を得られる点でも注目されています。
“誰かを支える人を支える”。そんな新しい視点から生まれたこの試みは、支援現場と子育て世代の双方にやさしい循環を生み出しつつあります。この記事では、その背景や取り組みの特徴を紹介していきます。
NPOで働く“支援者”が抱える現場の課題

NPOの活動は、地域の孤立や格差拡大など、行政だけでは届きにくいところに手を伸ばす重要な役割を担っています。特にコロナ禍以降、孤独・孤立の深刻化や物価高騰などの影響も重なり、支援を必要とする人は増え続けています。その一方で、現場で働くスタッフの多くが人手不足や業務の負荷に直面しており、相談できる相手が見つからないまま日々の課題解決に向き合わざるを得ない状況が続いています。
実際に、NPOの約6割が「人材の確保・育成が難しい」と感じている調査結果もあります。大切な支援を届けたい思いがあっても、スタッフの孤立や疲労が積み重なることで、活動が思うように前へ進めなくなるケースは少なくありません。支援の必要性が高まるほど、支援者自身のケアが後回しになってしまう。そんな矛盾を抱えた現場にこそ、新しいサポートの仕組みが求められています。
子育て中のママが“聴く力”で伴走するメンタリングとは?

支援の現場で働く人たちに寄り添うために生まれたのが、子育て中の女性がメンターとして参加する「NPOメンタリングプログラム」です。特徴的なのは、メンターが専門家ではなく、育児や仕事の経験を積んできた「身近な社会人」であることです。子どもの話を丁寧に聞く日々の中で自然と磨かれる“聴く力”や、人との関わりを大切にしてきた姿勢が、悩みを抱えるNPO職員にとって大きな支えになります。
メンターは2人1組で活動し、オンラインで月2回、約3か月にわたって伴走します。形式的なアドバイスをするのではなく、相手の話を聞きながら整理を手伝い、気持ちの負担を軽くしたり、次に進むためのヒントを一緒に探したりするのが役割です。距離を置いた立場だからこそ見える視点や、生活者としての実感を持った言葉が、話し手の安心につながっていきます。
また、この取り組みはメンターとなるママたちにとっても、新しい一歩を踏み出す機会になっています。育児中心の生活の中で社会とのつながりを感じにくくなることがありますが、自分の経験が誰かの支えになることで、役に立てている実感や前向きな気持ちが芽生えるという声が多く寄せられています。日常の延長にある“聴く力”が、支援の現場で確かな価値として活かされている点が、このプログラムの大きな魅力です。
