
「いくつかの棒を長い順に並べる」ことは、大人にとっては簡単なことです。
では、このような論理的な思考力は、いったい何歳ごろから身につくのでしょうか。
この素朴な疑問に挑んだのが、カリフォルニア大学バークレー校(UCB)の研究チームです。
研究者たちは、4歳でも自発的に効率的なアルゴリズムを見つけ出す能力を持っている可能性を示し、その証拠を提示しました。
今回の研究は、2025年10月3日付の『Nature Human Behaviour』 に掲載されています。
目次
- ピアジェの定説に疑問を投げかける「ウサギ並べゲーム」
- 子どもたちが自力で見つけた「2つのアルゴリズム」
- ピアジェは間違っていたのか? 子育てと教育への示唆
ピアジェの定説に疑問を投げかける「ウサギ並べゲーム」
発達心理学の巨匠ジャン・ピアジェは、子どもは経験を通して世界を理解していくが、 およそ7歳ごろまでは大人のような体系的な論理思考が十分には発達していないと考えました。
その代表例が「系列化課題(seriation task)」です。
長さの異なる棒をいくつか並べておき、「短い順に並べてみて」と頼むと、4〜5歳くらいの子どもは、棒をあちこち動かしながら試行錯誤を続け、なかなかきれいな順番にたどり着けません。
ピアジェはこのような観察から、「幼児は順番のルールに沿って計画的に並べるのではなく、場当たり的に行動している」と結論づけました。
この考え方は数十年にわたり発達心理学の基盤となり、「幼児期には体系的な論理思考はまだ十分には発達していない」とみなす考え方の土台になってきました。
しかし、今回の研究チームはここに疑問を投げかけました。
本当に子どもたちには体系的な戦略を使う能力がないのでしょうか。
研究チームは、あえて難易度を上げた新しい並べ替え課題を設計しました。
それがコンピューター上で行う「ウサギ並べゲーム」です。
ゲームのルールは次の通りです。
- 画面上には数匹の「ウサギのキャラクター」が横一列に並んでいる。
- しかしウサギたちは壁の向こう側に立っていて、身長は見えない。
- 壁の下から見えているのは、ウサギたちのスニーカー(靴)だけ。
- 子どもは「一番低いウサギから一番高いウサギへ」という順番に並べるよう求められる。
- 2匹のスニーカーをクリックすると、その2匹の位置を「入れ替えよう」と試みる。
- もしその2匹の並び順が逆であれば位置が入れ替わるが、すでに正しい順番なら何も起こらない。
この仕組みのため、子どもは「適当に入れ替えて、その後の見た目で微調整する」といったやり方ではうまくいきません。
どのペアが間違った順番なのかを頭の中で覚え、論理的に推理しながら、全体の並びを整えていく必要があります。
研究チームは、この「ウサギ並べゲーム」を使い、4〜10歳の子ども123人に課題をやってもらい、その行動パターンを詳しく分析しました。
子どもたちが自力で見つけた「2つのアルゴリズム」
実験の結果、驚くべきことに、子どもたちはこの難しい課題を、偶然よりはるかに高い精度で解いていたことが確かめられました。
身長が見えない状態で、入れ替えの結果だけを手掛かりにしながら、それなりに正しい順番に並べていたのです。
さらに研究チームは、「どの順番でどのペアをクリックしたか」というログをもとに、 その行動パターンが、計算機科学で知られている並べ替えアルゴリズムと対応しているかどうかを調べました。
その結果、子どもたちは少なくとも2種類の有名なアルゴリズムを、自発的に使っていることが確認されました。
テストした子どもの半数以上が、何らかの構造化されたアルゴリズム思考を示していました。
子供たちが頻繁に用いていたアルゴリズムは以下の通りです。
① 選択ソート(selection sort)
- まず、全体の中から「いちばん低いウサギ」を探す。
- 見つけたら、それを一番左端の位置に持ってくる。
- 次に、残りの中から「いちばん低いウサギ」を探し、2番目の位置に置く。
- これを繰り返し、左から順に並びを確定させていく。
子どもたちの行動データを見ると、左端から順に位置を「確定」していくような入れ替えパターンを示すケースがあり、研究チームはこれを選択ソートに対応する戦略として捉えています。
② シェーカーソート(shaker sort)
もう1つは「シェーカーソート」と呼ばれるアルゴリズムであり、左右に“振る”ように並びを整えていくのが特徴です。
- まず左から右に向かって、隣同士のウサギを比べ、順番が逆なら入れ替えていく。
- 一番右端まで行ったら、今度は右から左に戻りながら、同じように隣同士を比べて入れ替える。
- これを左右に行ったり来たりしながら繰り返し、全体の並びを整えていく。
実際のデータでも、左から右、右から左へと往復しながら隣同士を比べるという特徴的なパターンが見られ、これはシェーカーソートに対応すると解釈されています。
もちろん、年齢による差もはっきり現れました。
年齢が上がるほど、正答率や効率は高くなり、効率的なアルゴリズムを使う頻度も、年齢とともに増えていたのです。
しかし重要なのは、最年少の4歳児の中にも、こうしたアルゴリズム的な行動パターンを示す子がいたという点です。
これは、「7歳までは体系的な戦略を使えない」とみなしてきた従来の見方を、見直す必要があることを示しています。

