12月3日、レッドブルはF1最終戦アブダビGPを前に2026年のドライバーラインアップを発表。今季途中から同チームで走った角田裕毅はリザーブに回り、代わってアイザック・ハジャーが昇格することになった。
ハジャーは今季、レーシングブルズで印象的なルーキーシーズンを送った。オランダGPでは3位表彰台を獲得し、現在ランキング10番手につけている。一方の角田は第3戦日本GPからリアム・ローソンに代わってレッドブルのマシンをドライブしているが、30ポイントしか獲得できておらず、ランキングは15番手。マクラーレンのふたりと激しいタイトル争いを繰り広げているチームメイト、マックス・フェルスタッペンには大きな差をつけられた。
一方のレーシングブルズは、ハジャーの後任として現在F2参戦中のアービッド・リンドブラッドが昇格し、ローソンとコンビを組む。これらの選択は正しいものなのか? それとも疑問符の残るものなのか? motorsport.comのライター陣が見解を述べる。
レッドブルのデジャヴ——オレグ・カルポフ
ハジャーの昇格に関して懸念される点はひとつだけだ。彼はザントフールトで表彰台を獲得するなど素晴らしいルーキーシーズンを送っていて、予選でも決勝でも力強いパフォーマンスを見せた。だが、それだけで昇格に値するとは限らない。
まず来季のレッドブルが優勝や表彰台を争えるかは大いに疑問だが、仮に戦闘力があったとすれば、ハジャーは大きなプレッシャーに晒されることになる。好調時よりも不調時の方がスポットが当たる。ジュニアチームでは印象的な瞬間だけで評価されるが、トップチームでは安定性こそが求められる。彼はその準備が本当にできているだろうか? 私はそうは思わない。
過去にダニール・クビアト、ピエール・ガスリー、アレクサンダー・アルボン、リアム・ローソンらが辿った道に、ハジャーも行き着く可能性がある。これは容易に想像がつく。彼らに共通しているのは、メインチームのシートを圧倒的な実力で奪い取ったのではなく、メインチームのドライバーの不調などで空いたシートに“次の昇格候補”として収まったということだ。
クビアトはセバスチャン・ベッテルの後継者として準備ができていたか? 答えはノーだ。ではガスリーがリカルドの後継者になる準備ができていた? これもノーだ。アルボンもローソンも、ガスリーやセルジオ・ペレスの不振によって昇格できたに過ぎない。
彼らの昇格があと1年……できるなら2年遅ければ、もう少し上手くやれていたかもしれないが、F1キャリアの早い段階でチャンスを得たことが彼らには不利に働いた。マックス・フェルスタッペンは、純粋な才能のみでトップチームに昇格したおそらく唯一の存在だ。他のドライバーは単なる緊急措置に過ぎなかった。
ハジャーについても同じことが言える。角田裕毅が契約延長に値するパフォーマンスを出せなかったことは確かだ。レッドブルが角田を残留させなかったことにも驚きはない。しかし、次はハジャーの番だ。彼は多くのドライバーを苦しめてきたシートに座ることになる。彼が前述のドライバーたちよりも上手く対応することを期待するが、それは現実的なものなのだろうか?
理に適った交代だ——フィリップ・クリーレン
角田裕毅が乗りづらいRB21で厳しい戦いを強いられたのは言うまでもない。しかし、角田が30ポイントの獲得にとどまっている一方で、チームメイトのフェルスタッペンが最終戦に向けてチャンピオンの可能性を残しているという事実も無視できない。
様々な理由から、角田はレッドブルのセカンドシートの新たな犠牲者となってしまった。レッドブルが2026年に向けてより乗りやすいマシンの開発を進めている中で、角田が来季どんな走りを見せたのかは興味深い。
ただし、彼が十分な結果を残せなかったのも事実。その中でハジャーのパフォーマンスは無視できないものになっていた。特にザントフールトでの表彰台はハイライトとなった。そしてハジャーは来季F1参戦2年目であり、既に5年の経験がある角田と比べても成長の余地は大きい。
レーシングブルズはレッドブル陣営のドライバーの育成を目的としているため、角田をそこに戻すのはあまり理に適った選択ではない。ローソンは未だひとつのチームでフルシーズンを戦い切った経験がないが、今季後半はレーシングブルズのマシンに適応して力強いパフォーマンスを見せた。
そして次に控えていたのが、レッドブル陣営がハジャーと同等に評価するリンドブラッドだ。彼はメルセデスのアンドレア・キミ・アントネッリと同様に、レース経験の浅い18歳という段階でF1シートを手にすることになる。リンドブラッドにもアントネッリのように、失敗し、成長する時間が与えられることを願うばかりだ。
リンドブラッド昇格は早すぎる?——ベン・ヴィネル
ハジャーを昇格させたレッドブルは正しいのか、角田はローソンよりもレーシングブルズのレギュラーシートに相応しいのか……私はその論争には加わりたくない。そもそも現在のレッドブルで、フェルスタッペンのチームメイトになって互角に渡り合えるドライバーはいないと思っているからだ。
ただ、もし私に決定権があるなら、リンドブラッドはまだF1に上げなかっただろう。
誤解してほしくはないが、リンドブラッドには才能がある。レッドブルが彼に期待するのもよく分かる。しかし彼はカンポスから参戦するF2で目覚ましい活躍を見せたとは言えない。F2の序列がドライバーの実力をそのまま表しているとも言い難いが、リンドブラッドは安定感を欠いている。特に同じルーキーながら、安定した成績でチャンピオンとなったレオナルド・フォルナローリと比べるとそれは顕著だ。またカンポスが昨年ハジャーの手によってランキング2位を獲得していることを踏まえると、チームが問題とも言えない。
リンドブラッドはF2でもう1年戦い、F1昇格に向けて経験とスキルを身につけることが求められるのではないか。角田がレーシングブルズで十分な仕事をこなせることは皆分かっているのだから。
レッドブルはその決断をしなかったわけだが、いずれにせよフェルスタッペンのチームメイトとなるレッドブルのセカンドシートは常に“毒杯”であるハジャーが次なる犠牲者とならないことを願うばかりだ。
ローソンは今後どうすべきか?——エド・ハーディ
レッドブルは2006年にミナルディを買収して姉妹チームを作って以降、2チーム間でのドライバーの昇格・降格を繰り返してきた。ハジャーはトップチームに昇格する最新のドライバーであり、逆に今年途中にイタリア・ファエンツァの姉妹チームに戻ることとなったのがローソンだ。
ローソンは来季、ようやくひとつのチームで腰を据えてフルシーズン戦えることになるが、早いうちにレッドブルファミリー以外での未来を模索した方がいいかもしれない。というのも、レッドブルは一旦降格させたドライバーを再びトップチームに戻したことがない。過去にはガスリーが当時のアルファタウリで活躍し、アルボンと交代すべきという声もあがったが実現しなかった。
後輩であるハジャーに先を越された形となったローソンはどうすべきか? レッドブル復帰の道は見えないどころか、レーシングブルズが若手育成の場として機能している以上、ここにとどまり続けるわけにもいかない。
したがってローソンは2027年シーズンに向けて新たな選択肢を探るのが賢明かもしれない。アルピーヌはフランコ・コラピントの将来が疑問視されているし、ハースもオリバー・ベアマンがフェラーリに昇格するかどうかでシートの状況が変わる。ローソンは来年、自分の未来のために慎重に動く必要がある。

