角田裕毅が来季のF1レギュラーシートを失うことが決まった。正直に申し上げて実に悔しい。
しかし一方で、仕方のないことだったとも言える。成績的に見れば、チームメイトであるマックス・フェルスタッペンとの差は歴然であるからだ。
角田裕毅というF1ドライバーは、非常に速いドライバーであるのは間違いない。実際、今季苦しいシーズンを過ごした中でも、チームメイトに迫るラップタイムを記録し、先日のカタールGPではスプリント予選でチームメイトよりも速かったのだから。しかもそのチームメイトは、普通のチームメイトではない。歴代最高ドライバーのひとりとしても数えられる、マックス・フェルスタッペンである。
ただ結果は残せなかった。特に大きかったのは、パフォーマンスが上がってきたシーズン中盤以降で、チームのミスが相次いだことだろう。アメリカGPではスプリント予選でコースインするタイミングが遅れてアタックできず、メキシコシティGPではピットストップ中にジャッキアップできず、サンパウロGPではペナルティ消化をミスした。そして極め付けは、ラスベガスGP予選でのタイヤの内圧設定ミスである。
レーシングブルズに在籍していた開幕2戦も、チームの戦略ミスでポイントを取り逃がした……。そしてフェルスタッペンと同じスペックのマシンを与えられないレースも多かった。
いったい何ポイントを取り逃がしたのでろうか……計算するのがおぞましい。
SNSなどを拝見していると、「チームのミスによって、角田は来季のシートを失った!」というような声が多いように見える。確かにその側面もあろうが、それも含めてチームにうまく仕事をさせる存在にならなければ、F1のトップドライバーにはなれないという側面もあるように思う。速ければいいというだけではない。
例えばアイルトン・セナやミハエル・シューマッハーというドライバーは、速かったのはもちろんだが、人心を掌握する能力にも長けていたという。「彼のためなら、無理してでもいい仕事をやってやるか」とか、「彼の手前、適当な仕事はできねぇな」とか、そう周囲に思わせる力が必要なのだ。
厳しい言い方にはなってしまうが、これだけチームのミスが相次いだということは、おそらく角田にはそういう部分の能力が欠けていたということもあるだろう。チームスタッフに対し優しく接すればいいというわけではないし、逆に厳しく接すればいいというわけではない。非常に難しい塩梅であろうが、それは必要不可欠な能力であるはずだ。
角田はF1のパドックでは他に例を見ないほどの”愛されキャラ”というポジションを確立している。それをベースに、チームを掌握する力を今後より昇華させていくことができれば、新タイプの欠かせないドライバーとして、より一層パドックに受け入れられることだろう。
またこういう声も聞かれた。「レーシングブルズからレッドブルに昇格するべきではなかったのでは?」というものだ。しかし私は、全くそうは思えない。
F1でトップチームのシートを手にするチャンスなど、そうそう訪れるものではない。角田の昇格が決まった当時も書いたが、もしトップチーム入りするチャンスが到来したならば、当然それを掴むべきだ。どんな茨の道が待っているとしても。そしてステップアップするためには、そこで好結果を残すしかない。ただ、今回その挑戦はうまくいかなかった。
角田の挑戦は、これで終わりではない。レッドブルのリザーブドライバーを1年務め、そして2027年に請われてどこかのチームからF1に復帰するという可能性だって十分にある。そのためには、今週末のアブダビGPは特に重要だ。
レッドブルでの最後の1戦。初日のフリー走行から、彼本来の速さを見せつけてほしい。そして周囲をしっかりと動かし、チームとして機能させる……そんな角田裕毅を見せて欲しいと切に願う。そうすれば、他のチームから声がかかる可能性も必然的に高まるはずだ。
最後にホンダとの関係についても申し上げておきたい。今回レッドブルが下した決断には、ホンダはほとんど関与していないはずだ。角田はホンダ育成出身だが、今や完全にレッドブルのドライバーだからだ。
以前ホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長が明言した通り、角田には本田技研工業がパーソナルスポンサーとしてついているため、スポンサーという立場で”推薦”した可能性はある。しかしHRCとしてはずっと「最終的な決定権はチームにある」という立場を明確にしてきた。
一部で報じられているように、来季以降のTPC(旧車テスト)で使うパワーユニットの供給契約に関する交渉も行なわれているはずだが、その条件に”角田裕毅を起用し続けること”という条項だったり、角田を起用するなら費用を減額するという内容は含まれていないと推測される。それは別の問題だという声も内部から聞こえてくるし、カタールGPでレッドブルのモータースポーツ・アドバイザーであるヘルムート・マルコ博士もそう語っている。
ホンダやHRCは冷たい! と思う人もいるかもしれない。しかしそれは違う。真の意味でトップドライバーとなるためには、いつかメーカーや育成システムの庇護から抜け出し、その能力・価値を自分自身(とマネジメントチーム)で証明していかなければいけない時がやってくるものだ。
今年のはじめ、渡辺社長はこう言っていた。
「彼(角田)はもう5年目だし、能力もあってF1の世界もよく知っている。我々にできることはもうそんなにないです。プロですから、マネージャーも含めて周りをしっかり固めて、必要なシートを取りにいってほしい」
「メーカーによるお膳立てがあってそこに乗るというスタイルが、日本では主流すぎたんだと思います。いつまでもホンダにだけおんぶに抱っこというわけにはいかないです。角田選手くらいのキャリアになれば、自分で考える必要もあると思います」
まさにその通りだと思う。
角田が今後飛躍するためにはもちろんだが、日本のモータースポーツ界にとってもそれは議論すべきテーマであるように思う。さらに多くのファンを惹きつけるためにも、こういう考え方が普通……という風にならなければいけないのではないだろうか。メーカーの垣根など関係なく、良いドライバーには各方面から声がかかる、そういう形でいいじゃないか。
来季のF1のグリッドには、日本人ドライバーがいない。そのことは、読者の皆さんと同じように私としても非常に寂しいし残念だ。しかし我々がこれまで以上に熱狂する、そんな未来が待っていることを切に願う。
そして多くの人が考えなければいけない。そのために、それぞれの立場で何が必要なのかということを……。
最後に。角田裕毅のF1復帰を待っている。

