「猟友会や政治家からの圧がなかったと言えばウソになる」
猟友会、猟政議連の強硬な対応も県の迷走に拍車をかけた。
もともと県はすでに民間のライフル射撃場が県内にあることや利用者が減少傾向にあることから、費用対効果に乏しく、新たなライフル射撃場整備は困難と猟友会、猟政議連に伝えていた。
だが、両者からの執拗な要請がやむことはなかった。手狭な安中射撃場にライフル棟を新設することの安全上のリスクに薄々気づきながら、県議会の環境農林常任委員会、鳥獣害対策特別委員会、県自民党政調会など、あらゆるルートを通じて、県に早期のライフル射撃施設開場を促したのだ。
その圧の強さについて、山本知事も定例会見でこう表現している。
「(強い要望を受け)一刻も早くライフル射撃施設を完成させようとするあまり、具体的な適合策がないまま、整備を急いでしまったというのが(安中射撃場開場遅延の)背景だと考えています」
前出の県庁OBもこう振り返る。
「県は猟友会に有害鳥獣の駆除をお願いする立場。また、猟政議連の県議は県民の代表。その両者の声を無視するのは難しかった」
このOBはとくに県に影響を与えたきっかけとして、2013年から14年にかけて起きた2つの出来事をあげる。
「ひとつは2013年12月に県議会の鳥獣害対策特別委員会が当時の大沢正明知事に出した提言。安中射撃場内にライフル棟を新設することを明記しており、『県議会の提言は無視できない。困ったことになった』と、同僚たちとぼやき合ったことを記憶しています。
もうひとつは提言を受け、翌14年1月にライフル射撃場新設に向けて調査費100万円が計上されたこと。しかも、大沢知事からは『この100万円、生きたカネにしないとダメ』と念押しまでされた。
調査をしてライフル射撃場整備はしないという結論になれば、100万円は死に金になってしまう。これはもう新設に向けて動くしかないと受けとめました」
県猟友会の会員は約1500人。その家族、知人を合わせれば、それなりの票田となる。猟友会はまた、2015年に3期目の改選期を迎える大沢知事に出馬要請をしていた。
「その猟友会の要望を聞くことで、政治家たちがその票田を期待していたのはまちがいないでしょう」(同前)
調査報告書はもともと無理筋だった安中射撃場内へのライフル棟整備について、「県庁職員の個々の判断に影響を及ぼすほどの、外部からの不当な働きかけを認めるに足る資料・発言は得られなかった」と結論づけている。
しかし、ある県庁関係者は「たしかにハラスメントまがいの恫喝はなかった。でも、猟友会や政治家からの圧がなかったと言えば、それはウソになる」と証言する。
興味深いのはライフル射撃場整備をしきりに県側に要請してきた県議に、自民党の小渕派議員が多いことだ。自民党の元ベテラン県議がそのわけをこう説明する。
「群馬県議会は自民党王国で、小渕、福田、中曽根の3派が覇を競っている。福田、中曽根派は前橋、高崎などの市部に強く、小渕派は吾妻、渋川、安中、甘楽など、郡部が拠点。
鳥獣害が発生するのは主に郡部。だから、自然と小渕派議員がライフル射撃場整備要求の中心勢力になっているのでしょう」
だが、執拗な県への働きかけがなければ、ライフル射撃場整備のプロジェクトがここまで歪になることもなかったのではないか。
県猟友会の会長の見解は?
現在、県と県警はクレー弾の飛散を制限する遮へいボックスの設置など、「特別の安全措置」を検討しているが、いずれの安全策も決め手に欠けており、クレー、ライフルの同時開場は見通せない状況にある。
にっちもさっちもいかない安中総合射撃場の現状を前に、県猟友会の大矢力会長がこう語る。
「ライフル射撃場整備には、鳥獣害駆除の担い手育成という公益があることだけは理解してほしい。ただ、そのための予算投入が17億円以上もかかっていると聞かされ、びっくりしている。
それを知った以上、猟友会としてもむやみに税を投入して安中射撃場のクレー、ライフル同時開場を目指せとは言えない。どうしても開場の見込みがつかないというのなら、ライフル棟のみの片肺営業を受け入れる用意はできています」
群馬県はライフル射撃場を得た代わりにクレー射撃場を失ってしまった。地方創生プロジェクト失敗の代償はあまりに大きい。
文/集英社オンライン編集部

