
このほど、ギリシャ中部の古代墓地で、2700年前に亡くなった「逆さ王冠の貴婦人」の遺骨が発見されました。
この女性の頭には、権力の象徴である王冠が「逆さま」の状態で被せられており、その謎めいた埋葬スタイルが、当時の社会的激動や失われた権力のドラマを今に伝えています。
まるで権力を追われた女王が、静かにその歴史の闇に消えていく瞬間を目撃するかのようです。
目次
- 発掘された「逆さ王冠の貴婦人」の物語
- 社会変動と埋葬に込められた意味
発掘された「逆さ王冠の貴婦人」の物語
この発見は、ギリシャ中部フティオティダ地方、キフィシダ湖の東麓に位置する古代墓地で行われた救済発掘調査によるものです。
工事中に偶然発見されたこの墓地からは、紀元前7世紀から紀元前6世紀の高い社会的地位を持つ人々の埋葬が次々と明らかになりました。
中でも最も注目されたのは、研究者らが「逆さ王冠の貴婦人」と呼ぶ20〜30歳の女性の墓です。
この女性の頭には、青銅製の見事な王冠が置かれていましたが、通常とは異なり「逆さま」に配置されていました。
王冠の正面には大きなロゼット(花飾り)があしらわれ、背面には向かい合う雄雌のライオンが刻まれていました。
ライオンは古代から王権と権威の象徴とされ、まさに高貴な地位を示す装飾です。
【発見された王冠の画像はこちら】
しかし、王冠を逆さに被せることで、ライオンは仰向けになり、その意味は一変します。
これは現代においても、王冠が逆さまになることが「退位」や「失脚」を象徴するのと同じく、当時の社会でも権力の喪失や地位の終焉を意味していたと考えられます。
社会変動と埋葬に込められた意味
なぜ、このような象徴的な埋葬が行われたのでしょうか。
発掘地の詳細な調査によれば、この女性が生きていた紀元前7世紀中頃は、古代ギリシャ社会の大きな変革期でした。
従来の世襲王制が揺らぎ、名門貴族の台頭や寡頭制の誕生といった政治的激動が進んでいた時代です。
女性はおそらく高貴な家系に生まれ、かつては社会的権威を持っていたものの、社会の変化に巻き込まれ、最後にはその地位を失ったのでしょう。
その「終わり」を象徴するように、権力の証しである王冠が逆さまに置かれたのかもしれません。
また、女性の墓からは豪華な副葬品が多数見つかっています。
青銅製の大型ブローチやネックレス、骨や象牙のビーズ、琥珀の玉、青銅製のイヤリング、螺旋状の指輪など、どれも当時の豊かさと地位を物語るものです。
さらに、同じ墓域からは4歳ほどの少女も発見されており、こちらもロゼット付きの青銅ディアデムを冠していたことから、二人には何らかの血縁関係があった可能性が示唆されています。
参考文献
Elaborate 2,700-year-old tomb in Greece contains burial of a woman with an upside-down crown
https://www.livescience.com/archaeology/elaborate-2-700-year-old-tomb-in-greece-contains-burial-of-a-woman-with-an-upside-down-crown
Εντυπωσιακές ταφές των αρχαϊκών χρόνων στην Φθιώτιδα – Η αρχόντισσα με το ανεστραμμένο διάδημα
https://www.culture.gov.gr/el/Information/SitePages/view.aspx?nID=5520#prettyPhoto
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

