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『苺畑の午前五時』とバッド・フィンガー|ビートルズのことを考えない日は一日もなかったVOL.43

西新宿で購入したバッド・フィンガーの海賊盤

バッド・フィンガーのブート『If you want it…』

わたしがバッド・フィンガーをちゃんと聞くのはそれから3年後の1990年。西新宿のブート屋で見つけた『If You Want it』というタイトルのCDであった。初期オリジナルアルバム3枚がCD2枚に収録されたもので、値段は9000円。かなりの高額品だが、それでも購入したのは、松村さんの影響にほかならない。ブートであるものの音は良好で、レコード落としではないクオリティを誇っていたのは、どういう経緯で流れてきたものだったのだろうか。「キャリー・オン・ティル・トゥモロウ」から始まり「ウィズアウト・ユー」で終わる1枚目、「ブラッドウィン」で始まり、「イッツ・オーヴァー」で終わる2枚目。そのすべてに感動し、長年聞くことのできなかった積年の気持ちも加わって、聞き終えた瞬間、自分にとってバッド・フィンガーは特別なバンドになったのであった。それから1年後に実現したジョーイ・モーランドによるバッド・フィンガーの来日公演(渋谷クアトロ)も当然足を運んだ。

それからさらに数年時が流れて2000年代に入ったあたりの頃、仕事を通じて何度か松村さんにお会いする機会に恵まれた。お互い応援していたバンド、COILのライブでお会いすることが多かったのだけど、そのたびにビートルズ話に花を咲かせた。自分の好きな作家とビートルズの話をする、これ以上ない至福の時間を何度か持つことができたのは感動の極みである。あるとき、酒席の場で、持参した『苺畑の午前五時』に「サインをもらえますか?」とお願いしたら「いいよ」と快諾して表紙裏の白いページにサインを書いてくれた。86年から愛読していた小説に16年の時を経て著者のサインが入った瞬間に感動したことは言うまでもない。今思えばその時間はちょうど午前5時だったような気もするが、そこに松村さんがひと言記したFightingの理由については、墓場まで持っていかなければならないのではないかと思っている。

松村さんにいただいたサイン
配信元: Dig-it

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