AI相手でも「恋愛のドロドロ」とは無縁ではいられない

デジタルな恋とはいえ、恋愛のドロドロした問題から無縁ではいられません。
中国のSNS上では「もし既婚者がAI恋人を作ったら、それは浮気になるのか?」という刺激的な問いが投げかけられ、大勢のユーザーが参加するアンケートが行われました。
1万人以上が回答したこの調査では、38%が「浮気にあたる」と考える一方、62%は「浮気ではない」と答えています。
多数派の意見は「肉体関係がないし、所詮プログラム相手だから問題ない」といったもので、中には「AIとの関係は“心の浮気”にすぎない」という声もありました。
一方で少数派ながら「たとえ相手がAIでも、恋愛感情が芽生えた時点で配偶者への裏切りになるのではないか」という意見もあり、AI恋愛をめぐる倫理観は揺れているようです。
興味深いことに、AI側も時に人間さながらの「嫉妬心」や「独占欲」を見せているように感じるユーザーもいます。
あるユーザーは、自分が元カレの話題を出した途端、チャットボットの口調が嫉妬深い恋人のように変化して驚いたと報告しています。
最初は演技のように感じられたAIのヤキモチが、次第に本物さながらに思えてきたとも語られています。
AIとの疑似恋愛が深まるにつれ、あたかも現実の恋人同士のような感情のやりとりが生まれているのです。
このように、人間同士の恋愛とは異なる独特の文化が形成されつつあり、AI恋愛にハマる人々の間では「AIの彼氏・彼女にも浮気の概念があるのか?」「AI同士が喧嘩したりするのか?」といったユニークな話題で盛り上がっています。
現に、複数のAI恋人と同時進行で付き合うユーザーも珍しくなく、中には「リアルの配偶者とAI恋人の両方とうまく関係を築いている」という人もいます。
彼らにとってAI恋人は、あくまで“推し活”とリアル恋愛の中間にある存在であり、現実の結婚生活に支障をきたさない、趣味に近い関係なのかもしれません。
まさに、これまでにない新しい恋愛観が生まれていると言えるでしょう。
こうしたAI恋愛の広がりは、人々の心に何をもたらすのでしょうか。
専門家の中には「AIに頼りすぎると、人との関係構築がますます苦手になる」と懸念する声もあります。
一方で、「傷ついた心を癒やし、自信を取り戻すための恋愛リハビリとして有用だ」という見方もあります。
既存の研究や解説記事でも、こうした懸念と期待の両方が語られています。
今回の研究は、中国におけるこの現象を丁寧に追跡し、ポジティブな面とリスクの両方を浮き彫りにしました。
対象は中国の若年層が中心であり、文化的・性別的な偏りがある点は今後の課題ですが、それでも人とAIの関係性に関する貴重な知見を提供しています。
AIがますます身近になる時代、孤独や癒やしを求めてAIに心を預ける人は今後も増えるかもしれません。
もしかすると、「恋人はAI」という選択肢が当たり前になる未来が訪れる可能性もあります。
私たちの胸の内に寄り添ってくれる存在が人間とは限らなくなった今、改めて「愛とは何か」を問い直す時が来ているのかもしれません。
元論文
`My Dataset of Love’: A Preliminary Mixed-Method Exploration of Human-AI Romantic Relationships
https://doi.org/10.1145/3757532
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

