「大乱闘スマッシュブラザーズ」のその先へ! 対戦ゲームからいかにストレスを取り払う?
筆者は先ほど、「1位をとるという勝利の気持ちよさ」と書いた。しかし、これは裏を返すと、「1位をとれない」というストレスが用意されているということでもある。
誰だって勝ったら気持ちいいが、負けたら悔しい。FPS、対戦格闘ゲーム、レースゲーム……あらゆるジャンルの対戦ゲームでは、「負ける」というストレスがつきものだ。「対戦」を前提にする以上、「負けのストレス」は必要悪といえる。
しかしながら、桜井政博はこれまで、この「負けのストレス」に対する改善を続けてきた。
(画像は「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」)
たとえば、桜井の代表作である「大乱闘スマッシュブラザーズ」は、対戦格闘ゲーム的なルールを持っている。しかし、その本質は、勝敗を競うことを前提とした競技的な対戦格闘ゲームへの明確なアンチテーゼだ。
対戦格闘ゲームをいわゆる「eスポーツ」のように競技的なものと捉えた場合、より上手いプレイヤーが勝つべきだろう。プレイヤーの腕前によって勝敗が決まるからこそ、「競技」は成立するのだ。運や偶然はなるべく影響すべきではない。
しかしながら「大乱闘スマッシュブラザーズ」は、ランダム出現するアイテムや、4人のプレイヤーによるバトルロイヤル形式といった要素を採用することで、意図的に運・偶然性を付加している。だからこそ、「大乱闘スマッシュブラザーズ」を競技として楽しみたいプレイヤーは、アイテム出現をオフにし、1vs1形式でプレイするのだ。しかし、「大乱闘スマッシュブラザーズ」の設計意図は、アイテム出現あり、4人バトルロイヤルという形式に込められている。
(画像は「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」)
運・偶然性が影響を与えれば、必ずしも上手いプレイヤーが勝つとは限らない。もちろん、上手なプレイヤーは勝ちやすいだろう。しかし、運や偶然性がからむと、ベテランプレイヤーだって新米プレイヤーに負ける可能性が出てくる。この結果、実力差の離れたプレイヤー同士で遊んでも、勝ったり負けたりといった状況が生じるのだ。
競技ではなく、純粋な娯楽として考えれば、「勝ったり負けたり」という状況が最も面白い。ずーっと負け続けるのがつまらないのは当然だとしても、ずーっと勝ち続けるのだって、別に楽しくはない。なぜなら、刺激がないからだ。
ということは、「競技」ではなく「娯楽」を前提にした場合。誰が遊んでも……それが実力の離れたプレイヤー同士であっても、「勝ったり負けたり」という刺激が発生するゲームこそが面白い対戦ゲームだといえないだろうか?
(画像は「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」)
「大乱闘スマッシュブラザーズ」は、こうした「誰が遊んでも勝ったり負けたりする」という課題に対し、ランダムに出現するアイテムや、4人バトルロイヤルという形式によって答えた。
また、見逃せないのが同作で導入されていた「世界戦闘力」だろう。
対戦ゲームには、自分の実力をはかる「ランクマッチ」がつきもの。「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズではプレイヤーの実力を示す要素として「世界戦闘力」が導入されている。ただ一般的な対戦ゲームのランクシステムはトップからの順位という形式を採用しているのに対し、「世界戦闘力」は「自分がどのくらいの人数を上回っているのか」という形式。
トップからの順位という表現形式は、プレイヤーの実力を直接的に示している。実際の自分の強さをシビアに知ることは、競技的なゲームであれば必要不可欠だろう。
だが娯楽なら、必ずしも、自分の実力をシビアに把握する必要はない。むしろ、「自分も、それなりに強かった」という満足感の方が重要だろう。なぜなら、娯楽は、楽しむためにプレイしているのだから。
この点で、「あなたは50万位です」とシビアな実力を突き付けられても、満足感には繋がりにくい。場合によっては、「自分以上に上手いプレイヤーが50万人もいるなら、プレイを重ねてもそう大したランクには到達しないだろうな」というネガティブな気持ちを招いてしまうだろう。
一方、「世界戦闘力5000」という形式であれば、現実的にはそれほど高い順位ではなかったとしても、「自分は弱いから、プレイしても無駄だな」というネガティブな感覚は持ちにくい。何位なのかを競うのではなく、数値の増加を純粋に楽しめるというメリットが「世界戦闘力」にはある。
「勝ったら気持ちいいが、負けたらストレス」ではなく、「勝ったり負けたりという刺激が楽しい」という「大乱闘スマッシュブラザーズ」の方向性は、本作でも継承。そして、「負けのストレス」をさらに軽減する方向へ発展を遂げている。
まずは、本作において「世界戦闘力」的な指標として用意されている「世界勝利力」。これは、「自分の勝利数が、どのくらいの人数を上回っているのか」を示す数値だ。「勝率」ではなく「勝利数」なので、負けは一切関係ない。
また、「シティトライアル」モードの「スタジアム」において、4つのミニゲームから好きなミニゲームを選んで戦うという設計も、「負けのストレス」軽減に影響している。16人のプレイヤーが4つのミニゲームに分かれて戦うので、1回のゲームの勝者は4人。一見「バトロワ」的なゲームに見えるものの、「勝者は1人」というわけではないのだ。
仮に、自分と同じミニゲームを選んだプレイヤーがゼロだった場合も、「戦わずして完全王者」として勝利扱いになる。とことんまで、「負けのストレス」が対策されている印象だ。
そして何より、本作はプレイそのものが面白い。「超快適操作」→「ド派手演出」→「勝利」→「追加要素アンロック」という流れのうち、「超快適操作」→「ド派手演出」の時点で本作はかなり楽しいのだ。だから、勝っても負けても、「もう一回やろう!」となる。
「勝ったり負けたりという刺激が楽しい」という方向性を発展させたという意味では、本作は「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」の精神的続編と言ってもいいように感じた。
まぎれもなくNintendo Switch 2のキラータイトル! 本体を持っているなら買いの一作
ここまで、本作を「対戦ゲーム」という観点から見てきたが、本作にはソロモード「ロードトリップ」モードも用意されている。「ロードトリップ」モードは、3つのミニゲームから1つを選び、クリアすることでコースを進行していく……。ミニゲームの内容によって獲得可能な報酬が変わる、ローグライト的なモードとなっている。
「ロードトリップ」モードにはストーリーが用意されているため、ソロモードとして十分な満足感がある。「シティトライアル」モードの対戦だけでも十分満足度が高いので、本作はボリューム面も驚異的だ。
また、「ロードトリップ」モードはソロモードとして楽しいだけでなく、「シティトライアル」モードの練習として機能する点も素晴らしい。「シティトライアル」モードではさまざまなエアライドマシンを乗りこなさなければならないし、「スタジアム」ではさまざまなミニゲームをプレイすることになる。当然、はじめて扱うマシンや、はじめてプレイするミニゲームで勝利することは難しい。
この点「ロードトリップ」モードでは、強制的にさまざまなミニゲームをプレイすることになるし、さまざまなエアライドマシンを集めて、乗り換えていくことになる。このため、「ロードトリップ」モードのプレイが「シティトライアル」モードの練習に繋がるのだ。ソロモードを遊んでいると、自然と対戦モードの練習になるという理想的な構成が実現されていると感じた。
正直、ここまで触れてきた点だけで、十分本作は傑作だろう。しかし、本作はここまで紹介してきた「エアライド」「シティトライアル」「ロードトリップ」という3つのモードに加えて、ミニチュアになった「エアライド」コースを上から見下ろした視点で最大8名がレースで乱戦を繰り広げる「ウエライド」モードまで用意されており、とてつもないボリュームを誇っている。間違いなく「神ゲー」であり、Nintendo Switch 2を持っているなら、確実に「買い」。
ここまで書いてきた通り、一見レースゲームに見えるものの、「マリオカート」とは明確に方向性の異なるゲームなので、「マリオカート」を持っていても「買い」の一択。Nintendo Switch 2にとってのキラータイトルのひとつであることに間違いはないだろう。
(文/田中一広)
