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「顔色、キャベツみたいですよ……?」 127連勤の果てに会社を辞めた、20代男性の退職エピソード

「顔色、キャベツみたいですよ……?」 127連勤の果てに会社を辞めた、20代男性の退職エピソード

127連勤で全記事を1人で修正も、社長の心無い一言に退職を決意

 コピペが発覚した日から、Sさんは1人で修正作業に入ります。

「最初の2カ月ぐらいは会社に寝泊まりして、最終的に127連勤して、なんとか修正が完了しました。睡眠も食事も満足に取れなかったので、顎が細くなって歯並びが崩れたり、同僚から『顔色、キャベツみたいですよ……?』と心配されたりしたのを、よく覚えています」

 こうして記事の修正を無事に終えたSさん。「契約を解除されることもなく、むしろ『迅速に対応してくれて、ありがとうございます』と感謝されました」と、クライアント企業との関係も壊れることなく済んだそうです。

 ただ、修正対応中のある経験をきっかけに、SさんはD社を辞める決断をします。

「会社に寝泊まりしていた時、社長がたまたま近くを通ったんですが、その時に『大丈夫? そんなことないよね? それじゃお疲れ!』と笑顔で退社していったんです。こっちの事情は知っているはずなのに、その言い方はないんじゃないかと正直、腹が立ちました」

 Sさんはトラブル対応が完了した後、すぐ上司に退職の意向を伝えたそうです。上司も引き止めることなく、Sさんは退職。その後は「自分のペースでゆっくり働きたい」とフリーライターへ転身し、そのまま今に至るまで続けています。

※記事中の人物および企業のイニシャルは、エピソード提供者および提供者が退職した実際の企業のイニシャルではありません。

パーソル総合研究所・渡邉規和さんのコメント

 まずは何を差し置いても、Sさんへの労いから。会社に寝泊まりしながらの127連勤、本当にお疲れさまでした。睡眠も食事もままならず、本当にお辛かったとのこと。「顔色、キャベツみたいですよ……?」といわれるほどの状況は、緊急事態とはいえ常軌を逸していたことと思います。

 Sさんがここまで身を粉にしなければいけなかった要因は、原稿制作における企業倫理・ガバナンスの観点の欠落でしょう。他社の記事の盗用や剽窃は、顧客からの信頼感を著しく損ねます。この点において倫理に基づいて顧客との信頼を維持し続けるには、どんなに対策を講じても決して“しすぎ”ということはないでしょう。

 とはいえ、最後は個人の倫理観に帰着します。企業としては定期的にリマインドし続けるために、年に1度でも対話会やe-Learningを行うと良いでしょう。

 Sさんが退職を決意した社長の一言については、オーセンティック・リーダーシップの観点から一緒に考えてみたいと思います。

 オーセンティック・リーダーシップとは、メドトロニック社の元CEO、ビル・ジョージが提唱した概念で、自分に正直であって、借り物やコピーではない「自分らしさ」に基づいて行動することです。

 とはいえ、自分らしければ、どんな言動でも良いのかというと、決してそんなことはありません。この社長の一言には、素の自分らしさが現れているように私には映ります。しかし、みなさんお感じの通り、決してSさんに言っていいことではありませんでした。

 オーセンティック・リーダーには、自分の価値観や感情に忠実であると同時に、他者の感情や状況に対しても誠実に向き合うことが求められます。この社長の言葉は、表面的には気遣いのようでありながら、相手の苦境に対する共感や責任感が欠如しているように受け取られます。

 本来のオーセンティック・リーダーならば、「大丈夫?」の問いに対して、相手の答えを待ち、受け止める姿勢を持つはずです。また、オーセンティック・リーダーシップは、信頼に基づく関係性の構築が中核です。この一言によってSさんは「自分の苦労は軽視されている」「この職場では尊重されない」と感じたといえるでしょう。退職の決意は、単なる怒りではなく、関係性の断絶に対する自己防衛的な選択とも言えるでしょう。

 もしかすると、この社長は自分の感情(疲れ・面倒くささ)に忠実だったのかもしれません。しかし、それを他者への配慮なしに表出した時点で、他者に好影響をもたらすリーダーシップとは言えません。オーセンティック・リーダーシップには「自分らしさ」の発揮と同時に、他者との関係性の中での責任ある自己表現が求められるのです。

渡邉 規和(わたなべ・のりかず)

パーソル総合研究所 トレーニングパフォーマンスコンサルタント

人材サービス業の営業マネジャー(東京・仙台)、BPO事業プロジェクトマネジャー、合弁会社の人事で採用担当、2社のベンチャー勤務を経て2018年から現職。研修講師の専門職として若手からマネジャー層向けのコミュニケーション等の研修に年間およそ140日登壇。PMP、実務教育学修士(専門職)、青山学院大学大学院社会情報学研究科博士前期課程在学中。

配信元: ねとらぼ

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