
同じ部隊で仲良くなった田丸(左)と吉敷(右)は、ともに生きて日本に帰ることを約束する。映画『ペリリュー ー楽園のゲルニカー』より (c)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー ー楽園のゲルニカー」製作委員会
【画像】「えっ」これが、かわいい絵柄なのに刺さる、映画『ペリリュー』戦場のシーンです(6枚)
板垣李光人らが「三頭身キャラ」を演じる
終戦80年となった2025年を締めくくるように、劇場アニメ『ペリリュー ー楽園のゲルニカー』が12月5日(金)から公開されます。武田一義氏が2016年から2021年まで「ヤングアニマル」(白泉社)で連載した同名マンガを長編アニメーション化したものです。板垣李光人さん、中村倫也さんらが声優として出演しています。
舞台となるのは、太平洋のパラオ諸島にあるペリリュー島。太平洋戦争末期、日本軍約1万人が守るこの小さな島で、約4万人の米軍との激しい攻防が繰り広げられました。戦地で戦ったのは、板垣さんらと同世代の若者たちでした。終戦後、日本に帰還した日本兵はわずか34人だったことからも、壮絶さを極めた戦場だったことが伝わってきます。
漫画家志望の田丸一等兵やその相棒となる吉敷上等兵たちは、かわいらしい三頭身キャラクターとなっており、ペリリュー島の楽園のような美しい景観が劇場アニメ版ではカラフルに描かれています。しかし、米軍との戦闘が始まると、ジャングルは破壊され、美しい砂浜は瞬(またた)く間に血に染まっていくことになります。
原作者であり、劇場アニメ版の脚本も手がけた武田氏は、1975年の北海道生まれです。そんな戦争未体験世代はどのようにして戦争マンガ、および戦争アニメに挑んだのでしょうか?
「ペリリュー島の戦い」をフィクションとして描いた理由
白泉社が2015年に出版したムック『漫画で読む「戦争という時代」』への参加を打診され、武田氏はかなり悩みました。極限状態に置かれた人間を描いてみたいという気持ちはあったものの、戦争を知らない自分が戦争マンガを描くことができるのかと自問自答したそうです。さまざまな資料を読み込んだ上で、当初はノンフィクションとして「ペリリュー島の戦い」を描くことを考えています。
戦史研究家の平塚柾緒氏が『戦争という時代』の監修を務めていました。平塚氏はペリリュー島に詳しく、武田氏にフィクションとして描くことを助言しています。そうして生まれたのが、『ペリリュー』の原型となる読み切りマンガ『ペリリュー 玉砕のあと』でした。
多くの戦争体験者を取材してきた平塚氏ですが、実名を出してのノンフィクションでは故人のプライバシーに触れる難しさを感じていたそうです。戦地には同性愛のカップルがいたことを平塚氏は聞いていましたが、記事として書き残すことはできませんでした。平塚氏に教えられたエピソードをもとに、武田氏は『ペリリュー』を連載化するにあたり、島田少尉(CV:天野宏郷)を慕い続ける泉一等兵(CV:三上瑛士)というキャラクターを生み出しています。
また、連載の目処が立った時点で、武田氏は2度ペリリュー島に渡り、今も島に残る塹壕に足を踏み入れています。塹壕内は想像以上に狭く、暑苦しかったようです。現地で長年暮らす女性に、日本の統治時代についての話も聞いています。フィクションとして描かれた『ペリリュー』ですが、田丸ら日本兵が戦地で体験した恐怖や飢餓感、望郷の念がとてもリアルに感じられる物語となっています。
武田氏は戦争体験者ではないからこそ、客観的に物語として構成することができたとも語っています。

生き残った日本兵たちは洞窟を寝ぐらにして戦っていたが、やがて飢えと病気に追い詰められることになる (c)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー ー楽園のゲルニカー」製作委員会
