最新エンタメ情報が満載! Merkystyle マーキースタイル
「想像力が戦争の抑止力になる」 生還者があいつぎ他界、『ペリリュー』の悲劇を描いた原作者の覚悟

「想像力が戦争の抑止力になる」 生還者があいつぎ他界、『ペリリュー』の悲劇を描いた原作者の覚悟

取材を断った「生還兵」が残した言葉

 ペリリュー島からの生還者にも、武田氏は取材しています。土田喜代一さんは生還兵34人のひとりで、土田さんの体験談が『ペリリュー』の物語のベースとなっています。ユーモアを交えて、戦争体験を語ってくれたそうです。

 しかし、生還者がみんな協力的だったわけではありません。やはり生還兵のひとりだった永井敬司さんにも取材を申し込んだところ、「あそこで戦っていない人にはわからない」と断られています。

 永井さんに断られたことが、逆に武田氏にとっては重要なモチベーションになったようです。2021年に刊行された『なぜ戦争をえがくのか 戦争を知らない表現者たちの歴史実践』(みずき書林)で、武田氏は「取材を断られたこと自体が大事な取材であった」と述べています。

 連載中の武田氏を激励した土田さんは2018年に98歳で、最後の生存者となった永井さんも2019年に98歳で亡くなっています。

「想像」することが戦争の抑止力になる?

  広島での被爆体験をリアルに描いたマンガ『はだしのゲン』は、作者の中沢啓治氏が自分の家族が火災に巻き込まれて亡くなるシーンをはじめとする被災描写を、もだえ苦しみながら執筆したことが知られています。つらい体験をマンガとして再現するのは、過酷な作業だったことは間違いありません。

 実際の戦場は経験していない武田氏ですが、『ペリリュー』を執筆する際には登場キャラクターたちになり切って、臨場感のある世界を生み出しています。見も知らぬ人間同士が、楽園のような島で殺し合う様子を想像しながら描くことも相当にハードな体験だったのではないでしょうか。

 田丸と吉敷が日本に無事に生還することを誓い合う戦争マンガ『ペリリュー』とその劇場アニメ版は、想像することの大切さを改めて感じさせる作品です。田丸たちは、米軍相手に戦うだけでなく、飢えや病気とも闘い、そして日本兵同士でも銃を向け合うことになります。頭のなかで考えるだけでも、つらい状況です。

 でも、そうした状況を少しでも想像することが、二度と戦争を起こさせないための抑止力にもなるのではないでしょうか。マンガやアニメ、映画を愛する戦後世代の人間にとって、「想像力」こそが戦争に立ち向かう一番の武器になると思うのです。『ペリリュー』に触れることで、平和と生命の重みをずしりと感じ取ってみてください。

●劇場アニメ『ペリリュー ー楽園のゲルニカー』
原作/武田一義 監督/久慈悟郎 脚本/西村ジュンジ、武田一義
声の出演/板垣李光人、中村倫也、天野宏郷、藤井雄太、茂木たかまさ、三上瑛士
配給/東映 PG12 12月5日(金)より劇場公開
 (c)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー ー楽園のゲルニカー」製作委員会

配信元: マグミクス

あなたにおすすめ